ボルボXC60 社運を懸けた新世代アーキテクチャの完成:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
先代XC60はここ数年、販売台数で見てもボルボの30%を占めるベストセラーだ。そのフルモデルチェンジは、ボルボにとってまさに正念場である。
10月16日、ボルボはミッドサイズSUVであるXC60をフルモデルチェンジして発売した。先代XC60は2008年のジュネーブモーターショーでデビュー。09年に日本市場に投入され、量産車として日本で初めて完全停止する自動ブレーキを搭載したクルマだった。なぜ輸入車が最初に国に認可されたのかと不思議に思うだろう。実は、ボルボは日本での自動ブレーキの認可に大きく貢献しているのだ。
当時の国土交通省は、「事故の責任が曖昧(あいまい)になる」あるいは「運転に注意を払わなくなって危険」と当然のように自動ブレーキの認可に抵抗した。ボルボは母国の役人や、英国の保険会社などから幾度もエキスパートを連れて来日し、国交省に対して詳細な統計を基に辛抱強く「自動ブレーキが事故削減に有意であること」の説得を続けた。そして、ようやく完全停止する自動ブレーキの認可を取り付けたのである。
当時それだけ抵抗した国交省も、今や「スイッチ1つで自動運転」という過剰表現のCMキャッチに対してすら「自動運転の進歩を阻害する恐れのある規制や指導を行わない」と言っているらしいので、この10年の変化に驚く。
ベストセラーのモデルチェンジ
さて、先代XC60はデビューして10年という古参だが、ここ数年、販売台数で見てもボルボの30%を占めるベストセラーである。驚くべきことに、モデル末期の現在でも販売数は微増し続けているという。10年間静かに微増し続けてきた結果、昨年の販売台数はデビュー時の2倍に達しているという。屋台骨となるベストセラーモデルのフルモデルチェンジは、ボルボにとってまさに正念場である。
ボルボは1999年にフォード傘下となり、以後、リンカーン、アストンマーチン、ジャガー、ランドローバーとともにフォード・プレミアム・オートモーティブ・グループに属していたが、リーマン・ショックでフォードの財政が悪化し、10年に中国の浙江吉利控股集団に売却された。
幸いなことに、スウェーデン第2の都市であるイエテボリの本社機能は温存され、開発も含めて従来の枠組みを継続することができた。しかしながら、他のフォード離脱組と同じく、フォードから受けていたエンジン、シャシーなどの基本コンポーネンツの供給を断たれ、独自で再構築する必要に迫られた。
ボルボは年販50万台ほどの小規模自動車会社で、モデルラインアップも多くはないが、上下の幅はそれなりにある。下はCセグメントのV40から、上は大型SUVのXC90まで。車両重量で言えば1.5トンから2.7トンまでのクルマを作らねばならない。シャシーにしろエンジンにしろそれぞれに適したバリエーションが必要だ。
しかし、ゼロから開発するには、エンジンにせよシャシーにせよ膨大なコストを要する大仕事であり、ボルボの規模でフルラインアップすべてを一気に刷新するなど、本来正気の沙汰ではない。
ボルボは決死の覚悟でアーキテクチャを検討し、全長・全幅・全高にフレキシビリティを持つ2つのシャシーを企画した。その第1弾が60/70/90シリーズ用のスケーラブル・シャシー「SPA(Scalable Product Architecture)」である。
シャシーの骨盤にあたるフロントバルクヘッド部をコアに、長さ・幅・高さを可変にすることでボルボラインアップの4分の3をカバーする。残る40シリーズに向けては別の新世代シャシー「CMA(Compact Modular Architecture)」がすでにスタンバイしており、国内導入は18年中盤とアナウンスされている。
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