顧客優先か労務管理優先か? ハイラックス復活の背景:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
トヨタが13年ぶりにハイラックスの国内販売を再開した。世間一般には国内再投入の理由はおろか、そもそもなぜハイラックスの国内販売が中止されたのかすら知らないだろう。そこには何があったのだろうか?
正攻法はとれない中での作戦立案
とれる選択肢は限られている。現実的な線はタイで生産されているハイラックスに日本の法規適合を図り、サイズの面では目をつぶってもらって販売するしかない。
ただカタログに載せれば良いならそれは簡単な話だが、国内で新たな(復活とは言え)モデルをリリースすれば、販売目標の設定は必須になる。1度商品性のポテンシャルを否定されたモデルで必達目標をクリアしないと言われても割に合わない。どの会社でも売っていないのだから国内マーケットの直近のデータはゼロとしか言いようがない。何しろ数字的なバックボーンそのものがないのだから何台売れるとは誰も言えないのだ。だから、言質を取った。平たく言えば、開発原価のリクープはグローバル販売でまかない、日本での販売に原価回収のノルマを持たせない。売れば売っただけもうけと考える。こうして13年ぶりにハイラックスは復活したのである。
さて、クルマというものは、各国にそれぞれの法規があるので、タイで販売中のモデルを本当にそのまま売れるかと言われるとそうもいかない。実際には20以上の部品を新たに起こさざるを得なかった。最も分かりやすいのは「直前直左ミラー」と呼ばれるキノコ状のミラー、あるいは日本のナンバープレートには封印があるので、簡単に取り外せるバンパーにナンバーを付けるのは法律の精神に反する。だからデッキに取り付けるように改造された。スピードメーターは14カ国語に対応していたが、日本語のフォントは入っていない。これも新たに起こさなくてはならない。クルマのあちこちに貼られるコーションラベルもまた日本語化する必要があった。加えて、法規とは別に、トヨタは、北海道仕様としてウィンドシールド・ディアイサー(窓の凍結解氷装置)を装備することを北海道のディーラーと約束しているから、これも追加せねばならない。
しかし、これらを正規業務として新たに起こせば嫌が応でもコストが発生し、それを減価償却しなくてはならなくなる。だから無理を通した。通常業務を持つ設計スタッフに手弁当でこれらの設計を頼み込んだのだ。労務管理の厳しいご時世にこれが正しいかどうかは異論のあるところだが、そこで原理原則を通せば、9000台の現保有者を見捨てるしかない。何しろ採算の見通しが立たない事業なのだ。
車種構成も工夫した。仕様そのものはハイグレード(374.2万円)でワンスペック、ローグレード(326.7万円)でワンスペックの2種類に絞った。工場オプションは設定なし。ディーラーオプションを充実させることでそこをカバーし、ボディカラーも5色に限定したので、順列組み合わせで見てもパターンは10通りしかない。そうせざるを得なかったのは、20日間かけて海路で輸送する都合上、1カ月半から2カ月のリードタイムが必要だからだ。ディーラーがある程度見込みで発注できないことには納車待ちが長くなりすぎるのだ。
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