トヨタのカンパニー制はその後成果を上げているのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
2015年4月にトヨタ自動車は大がかりな組織変更を発表。トップにヘッドオフィスを置き、その下に7つのカンパニーをビジネスユニットとして配置する形にした。その後、この新組織は成果を生んでいるのだろうか。
中嶋: われわれ技術屋は、トヨタの本社ビルの上でふんぞり返って、伝言ゲームで伝わってくる顧客の声を聞いて、顧客第一主義だとか言っていたわけです。エンジニアが現場を見ていない。だから伝達の段階でニュアンスが変わったり、本当のエンドユーザーでなく販売店さんの声を聞いて分かった気になったり、あるいはそもそも伝わってこなかったりすることが起きるのです。だからわれわれ自身が現場に出て直接見るように変えました。そうするといっぱい気付きがあるんです。「あれ? 今まで何してたんだろう?」。
池田: エンドユーザーの声を受け止めるための仕組み作りなどはされたのですか?
中嶋: 例えば、フリート販売(大口販売)の営業部隊にエンジニアを出向させます。これまでだと人事的に補償を求めたりしてました。1人出すから1人くれというような。そういうのをやめて、補償はいりません、その代わり必ず営業に配属して現場を見せてほしいと。昔は領域概念が強かったですから「何で技術屋がいちいち営業に来るんだ。おれたちの牙城を荒らすな!」みたいな声もありました。カンパニー制に変わって1年半やってきたことによって、「よし、一緒にやろうよ」と言う言葉が出てくるようになりました。
池田: 労務管理も厳しい時代ですから大変ですよね?
中嶋: 労務管理が厳しいからこそ、限られた時間の中で成果を出すためにベクトルの向きをしっかり合わせることだと思います。個々人の発揮する力は同じでも、そこでキチンと方向を合わせていけば、まだまだ効率は上げられるはずです。当社の社長からもそういう進め方に「それで行け」と言ってもらっているのですが、一方で「いい加減アウトプットもちゃんと出せ」と怒られています(笑)。
3つの柱をしっかり走らせていかなくてはなりません。繰り返しになりますが、最適なタイミングでより多くのクルマをリリースしていくこと。新技術をけん引して普及役を務めること。そしてバリューチェーンの見直しです。最も大事なことは正常な危機意識を持つことだと思います。
池田: それは極めてトヨタらしいですね。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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