豊田章男「生きるか死ぬか」瀬戸際の戦いが始まっている:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
定例の時期でもないのに、トヨタ自動車はとてつもなく大掛かりな組織変更を発表。豊田章男社長は「自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている」と話すが……。
11月28日、定例の時期でもないのに、トヨタ自動車はとてつもなく大掛かりな組織変更を発表した。昇格者56人、異動者121人。
最初にトヨタ自身の説明を抜き出そう。
トヨタは、「もっといいクルマづくり」と「人材育成」の一層の促進のために、常に「もっといいやり方がある」ことを念頭に、組織および役員体制の見直しを行ってきた。
2011年に「地域主体経営」、13年に「ビジネスユニット制」を導入、16年4月にはカンパニーを設置し、従来の「機能」軸から「製品」軸で仕事を進める体制に大きく舵を切った。17年も、9月に電気自動車の基本構想に関して他社も参加できるオープンな体制で技術開発を進めるための新会社(EV C.A. Spirit)を設立するなど、「仕事の進め方変革」に積極的に取り組んできた。
また、役員人事についても、15年に初めて日本人以外の副社長を登用、17年には初めて技能系出身の副社長を登用するなど、従来の考えにとらわれず、多様な人材を適所に配置する取り組みを進めてきた。
いま、自動車業界は、「電動化」「自動化」「コネクティッド」などの技術が進化し、異業種も巻き込んだ新たな「競争と協調」のフェーズに入っている。トヨタは、グループの連携を強化し、これまで取り組んできた「仕事の進め方改革」を一層進めるために、来年1月に役員体制の変更および組織改正を実施する。また、現在のトヨタを取り巻く環境変化はこれまでに経験したことがないほどのスピードと大きさで進行しており、一刻の猶予も許されない、まさに「待ったなし」の状況であると認識している。こうした認識のもと、役員体制については、本年4月に実施した後も、6月、8月、11月と随時、変更してきており、来年についても従来の4月から1月に前倒しで実施することにした。
今回の体制変更について豊田章男社長は「自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保障はどこにもない。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている。他社ならびに他業界とのアライアンスも進めていくが、その前に、トヨタグループが持てる力を結集することが不可欠である。今回の体制変更には、大変革の時代にトヨタグループとして立ち向かっていくという意志を込めた。また、『適材適所』の観点から、ベテラン、若手を問わず、高い専門性をもった人材を登用した。何が正解かわからない時代。『お客様第一』を念頭に、『現地現物』で、現場に精通をしたリーダーたちが、良いと思うありとあらゆることを、即断・即決・即実行していくことが求められている。次の100年も『愛』をつけて呼んでもらえるモビリティをつくり、すべての人に移動の自由と楽しさを提供するために、トヨタに関わる全員が、心をあわせて、チャレンジを続けていく」と述べた。
トヨタは違う何かになろうとしている
副社長のインが3人。アウトが1人。
専務のインが5人。アウトが6人。
常務のインが13人。アウトが7人。
副社長、フェロー、専務、常務といった首脳陣が担当する仕事は52のポジションのうち37で変更。実に7割を超え、まるで企業買収にでもあったような大改革である。トヨタはその組織を1度ドロドロに溶かして昆虫がサナギ期を経て変態するように、まったく違う何かになろうとしている。
振り返ってみればトヨタの危機感の起点は、内部的に見ればリーマンショックによる大打撃、北米の品質保証訴訟での社の存続を危うくするほどの大激震にあった。「そんな大げさな……」と言うなかれ、この2つの出来事は外から見た構図と、中で感じた危機感が大きくかい離しているのだ。
2000年代トヨタは毎年50万台ペースの増産を重ね。600万台そこそこだった生産台数を10年少々で400万台積み上げて1000万台メーカーになった。16年のホンダのグローバル生産台数が約500万台、フィアット・クライスラーが約450万台、スズキが約300万台という他社の動向を見ると、どれだけの伸長だったかが想像できるだろう。
トヨタには世界に冠たる「トヨタ生産方式」がある。トヨタ生産方式の真髄は「売れた分だけ作る」こと。それをあらゆる角度から徹底することがトヨタ方式だ。売れた台数以上は作らない。売れないーーつまり不良品は作らない。多品種少量を常にニーズにアジャストしながら売れた分だけ百発百中で作り、無駄を出さないことこそがトヨタ生産方式である。
ところが、このトヨタの鉄の掟が、毎年50万台ペースの生産増強で知らない間に棄損していた。本当にトヨタ生産方式の理念が貫かれていれば、リーマンショック後の需要激減に余裕でアジャストできたはずである。むしろあたふたする他社を尻目に、強みを発揮するべき場面だったのである。
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