早川書房が「ネット発の官能小説」を書籍化したワケ:異世界転生「JKハル」(2/3 ページ)
早川書房が12月に刊行した『JKハルは異世界で娼婦になった』。ネット発、異世界転生、官能小説という一風変わった小説だ。なぜあの早川書房が『JKハル』を書籍化したのか? 直撃した。
早川書房×インターネット
――「なろう」の書籍化では「最後発」とおっしゃっていましたが、早川書房はWebでの取り組みを積極的に行っていますよね。例えば2015年からWebメディア「cakes」で「SFマガジンcakes版」を連載したり、「note」で試し読みやイベントレポートを掲載したりと、外部メディアを使って読者とのタッチポイントを増やしている印象です。
小さい会社なので、「面白いからやってみよう」と誰かが言い出し、それにきちんと会社として取り組む理由があれば、比較的実現するようです。cakesでの連載については、運営のピースオブケイクさんからのお声がけもあり、「いずれ雑誌を完全電子化する日も来るかもしれないし、その時に備えてやってみよう」と始まったと聞きます。
noteは他社さんがやっているのを見て、「出版社が発信する媒体が必要なのではないか」という思いから生まれました。早川書房はメディアから取材を受けることはあっても、自分たちで発信することはそれほど多くありませんでした。また、「本の解説やあとがきを掲載する場所がほしい」という意図もあります。書評家や訳者による解説には、「この本を読んでみたい!」と思わせる力があります。そんな優れた文章を試し読みしてもらい、購入につながるきっかけになれば――と思っています。
――TwitterなどのSNS運営もしています。
SNSはそれぞれ4〜5人くらいで運営しています。最近、Instagramも始めました。海外の出版社だと、Instagramの宣伝力が大きなところが出てきています。Penguin Booksはフォロワー23万人、HarperCollinsは13万人、Bloomsbury Publishingは12万人。国内ですと、ファッション誌を出している出版社は積極的にInstagramをやっていますよね。早川書房は、国書刊行会のInstagramをお手本にしてアカウント運営をしています。国書さんのアカウントはとてもカッコいいんですよね。
――電子書籍の展開には、どのような考えを持っていますか?
早川書房の読者さんと電子書籍は相性がいいと思っています。特にSFは電子書籍の売り上げがいいようですね。ITリテラシーの高さやガシェットへの興味が影響しているのかもしれません。また、Webニュースで話題になったり紹介エントリに「はてなブックマーク」がたくさん集まったりすると、よく動きます。「すぐ買えてすぐ読める」という“近さ”がありますね。
以前は「電子書籍があることで紙の書籍の売り上げが落ちるのではないか」と考え、テスト的に電子書籍の発売を遅らせたことがあったのですが、それほど変わりませんでした。「紙も電子も両方売れたらハッピー」という思いで、早川書房は発売時期に大きく差をつけていないように感じています。ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロさんの作品はさまざまな書店で爆発的に売れましたが、紙の売り上げには及ばないまでも電子書籍もよく動いています。読者が「選べる」ということが重要だと感じています。
あと、現在紙の書籍ではなかなか手に入れられない名作なども、電子化すれば、新しい読者にも手に取ってもらえるというメリットもありますね。
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