シャアVS.ダース・ベイダー 上司にするにはどちらがいい? 激動時代におけるリーダーの条件:『最後のジェダイ』公開記念(4/4 ページ)
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』と『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』が公開された2017年。両シリーズに登場する魅力的な、あまりにも魅力的な「敵」。ダース・ベーダーとシャア・アズナブルについて、作家の堀田純司さんがそのリーダーシップの違いを考える。
優れた作品は時代を“読む”
冷戦終結後、欧米の安全保障の担当者たちは、これからの「危機の形」を模索していた。その結果、今後は「非国家組織による奇襲的な攻撃『非対称の戦い』が、重大な危機として浮上してくる」と予測し、そしてその予測は実現してしまった。宇宙世紀の歴史はこうした現実を、はるかに先取りしていたと感じます。
一方、「光と闇の争い」という背景を持つサーガ「スター・ウォーズ」は、「よりファンタジー的な、善悪二元論の物語」という見方もできますが、案外そうとも言い切れない。エピソード3『シスの復讐』で、元老院の最高議長パルパティーン(後の銀河皇帝)は「ジェダイもシスも、ほとんと違いはない」と発言していますが、確かに、彼の「秩序が真の平和をもたらす」という思想も、悪とは言い切れないのです。もし帝国の統治が続いていれば、銀河辺境でも安心して暮らすことができる「パックス ギャラクティカ」が実現していたのかもしれません。
欧州連合(EU)では、穏健派のリーダーが政権基盤を揺さぶられ、世界的に強権的なリーダーが台頭。しかもそれに熱狂する人たちもいる。帝国の成立がファースト・オーダーのような強烈な支持者を生んだように、その熱狂も複雑な世界の中で一理はある。「遠い昔、はるか彼方の銀河」の物語もまた、現代において新たな価値を感じさせています。
こうした状況は、なにも製作者たちが「小難しいことを考えていた」というわけではなく、その時代時代において「新しいもの、古びないもの」を一生懸命追求した結果だったのでしょう。そして実際につくられた作品は、世代を越えて長い寿命を持ちました。
かつてビジネス誌では「信長に学ぶリーダーシップ」など、そういった企画がしばしば表紙を飾り、筆者などはてっきり「歴史雑誌か」と誤解していたものです。では現代ならば「ラオウ、銀河皇帝に学ぶ、恐怖支配による社内規律の確立」といった企画があってもいいのではないでしょうか。もっとも、超絶ブラック企業になってしまうかもしれませんが。
堀田純司 1969年、大阪生まれ。作家。主な著書に「僕とツンデレとハイデガー」「オッサンフォー」(講談社)、「メジャーを生み出す マーケティングを超えるクリエーター」(KADOKAWA)、編著に「ガンダムUC証言集」(KADOKAWA)などがある。日本漫画家協会員。Twitter @h_tajep8は、期せずしてセカイ系化していたのが、興味深かったです。
関連記事
- 映画公開記念! ダース・ベイダー VS. シャア 魅力的な“悪”の条件
1977年と1979年、アメリカと日本で誕生した2人が今も人を惹きつけている。それぞれ2つの名を持ち、素顔を隠したダース・ベイダーとシャア・アズナブル。この魅力的な2人の共通点と、現代のわれわれにも通じるその“内面”を作家の堀田純司さんが読み解く。 - そもそも音楽は反体制なのかどうなのか問題
「音楽に政治を持ち込むな」「そもそも音楽は反体制だ」──最近、音楽をめぐってこんな議論が交わされた。作家の堀田純司さんは、「音楽と反体制」を戦後史からひもとき、現在の世代との認識のズレを指摘する一方、コンテンツに「反体制」の兆しが現れつつあるのを見ている。 - “不謹慎狩り”の背景にあるもの それは共感と共有のディストピア
災害時に寄付を公表した人が「不謹慎狩り」の標的にされ、過去に騒動を起こした人が出演したCMは放映中止に追い込まれる。そんな世の中は息苦しい、「もっと寛容に」という声もあるが、現代を生きる人々にとってそれはそんなにたやすいことではない──と作家の堀田純司さんはみる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.