滅亡する50ccバイク、トヨタのGoogleキラー:池田直渡「週刊モータージャーナル」2017総集編(3/3 ページ)
筆者が書いた記事で2017年のページビュー・ベスト5を取りまとめた。今回は昨年を振り返る意味でも、そのトップ3について改めて述べたいと思う。
グーグル&Uberつぶしのトヨタ・タクシー
10月末に開催された東京モーターショーに、トヨタ自動車は新型タクシー車両「JPN TAXI」を出展した。トヨタは以前からロンドンタクシーにヒントを得た、室内容積の大きいタクシー車両を開発しており、既にプロトタイプを発表していた。そのタクシーが遂にわれわれの目の前に現れた。JPN TAXIはシエンタと同時開発された車両で、基本的なメカニズムを共有する。
トヨタはタクシー車両のシェアの8割を保持しており、従来販売していた「クラウン・コンフォート」系のセダン型タクシーの販売終了を発表してたので、遠からず日本中のタクシーの8割がこのJPN TAXIに置き換わることになる。都市交通の景色が大幅に変わることはあらかじめ予想されていた。
しかし、真に驚かされたのはJPN TAXIに搭載されたコネクティッドシステムだった。しかし、真に驚かされたのはJPN TAXIに搭載が可能になったコネクティッドシステムだった。JAN TAXIはルームミラー基部にカメラを搭載し、車両周囲の画像と走行や運転操作のデータとともにこれを常時送信し続ける。JAN TAXIには「TransLog」と呼ばれるデータ通信型ドライブレコーダーを搭載することができ、これが搭載されれば、車両周囲の画像と走行や運転操作のデータとともにこれを常時送信し続ける。インターネットを経由したリアルタイムデータはAI(人工知能)によって分析され、さまざまに活用されることになる。リアルタイムの交通情報などはもちろんだが、その可能性は活用の知恵さえあれば無限だ。
法律が許すなら、警察とデータを共有して自走式パトロールドローンの役割も果たせるだろうし、行列店の待ち時間を予測して、一定以下の待ち時間のとき、会員にお知らせすることもできる。あるいは長期的な街の景観の変化を日刻み、あるいは場所によっては時間刻みで再生することもできるだろう。
都内で3万台というタクシー車両の8割ともなれば、事件や事故の決定的瞬間を記録する可能性も高い。現在すでに技術的には完成し、事務レベルでの搭載の可能性を検討中のこのTransuLogがJPN TAXIに標準搭載されるようになれば、世界が変わる。都内で3万台というタクシー車両の8割ともなれば、事件や事故の決定的瞬間を記録する可能性も高い。それが放送メディアとタイアップすればこれまでにないコンテンツが作られるかもしれない。
オリンピックに向けて都内に重点配備されるJPN TAXIは、やがて中古になって地方を走って地方都市をデータ化し、さらに古くなればアジア各国に輸出されてアジアの都市をデータ化するだろう。つまり日本のみならず、アジアの都市のデータをトヨタが握ることになる。
GoogleやUberが情報に価値を見出して新しいビジネスを次々と構築していく中、オールドエコノミーの代表のように言われてきた自動車産業は、やがてこれらに席巻されると思われてきた。トヨタはタクシーというリアルな現場を起点にして、IT巨人たちに一矢報いて見せた。IT巨人たちに一矢報いる可能性を明確に提示した。ラストワンマイルを握っているものが、最後に嗤(わら)う。それがこのJAN TAXIの真の姿である。
今年も日本の産業のエースである自動車業界の戦略や経営、優れた製品について、どんどん情報を発信していくつもりである。引き続きご愛読のほどよろしくお願い申し上げたい。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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