新幹線札幌駅、こじれた本当の理由は「副業」の売り上げ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)
JR北海道は、当初の予定だった現駅案を頑固に否定し続けた。主な理由は「在来線の運行に支障が出る」「プラットホームの広さを確保したい」としてきた。しかし、真の理由は他にある。「エキナカ、エキシタショップの売り上げが減る」だ。JR北海道の10年間の副業を守るために、新幹線駅は未来永劫、不便な駅になろうとしている。
「稼ぎ頭」の陣地を守れ
駅ビルというと「駅に隣接した建物」という印象があり、鉄道会社から営業スペースの縮小といわれても、きっぷ売り場と勘違いしそうだ。しかし、ここでいう「駅ビル」と「営業スペース」は、高架駅の下にあるショップ群を指す。札幌駅ビルが運営するエキシタ街、JRタワーの「paseo(パセオ)」の売り場面積は駅の高架下に広がっており、1階、地下1階まで合わせるとかなり広い面積になる。また、改札内には土産物屋があり、1番、2番ホーム下には「北海道四季彩館札幌西店」がある。ここは筆者もよく利用する。かなり広い土産物屋で、品ぞろえも多く、商品単価も高く、従って客単価も大きい。
JR北海道の12月13日付プレスリリース「開発・関連事業の取り組みについて」によると、JR北海道の16年度の鉄道・運輸事業以外の営業収益が787億円。グループ全体の営業連結収益の約46%になっている。その中でもJRタワーを運営する「札幌駅総合開発」は、JR北海道グルーブの稼ぎ頭だ。16年度の売上高は210億円、JRタワー内の商業施設のテナント売上高も975億円。副業の成功が話題のJR九州が運営する「JR博多シティ」のテナント売上高は約593億円というから、札幌のJRタワーは全国トップクラスの商業的価値を持っている。
鉄道事業で困窮するJR北海道にとって、商業部門はわずかな希望だ。札幌駅総合開発がグループ内で発言力を高めていることは想像に難くない。JR北海道が札幌総合開発から得る金は、地代家賃として約33億円、株式配当から46億円である。この配当金は、16年に配当要請金額の引き上げを要請した結果だ。16年にJR北海道は札幌総合開発の株式を287万株、36億円で売却し、14億円の売却益を得ている(参考資料)。
そう考えると、JR北海道が現駅案を避けたい理由が納得できる。大東案で追加される費用、55億円をJR北海道が負担するという言い分も分かる。札幌総合開発はJR北海道にとって金を生み出す金のタマゴ。いわば不可侵領域だ。55億円を出したとしても、ドル箱の商業スペースを守れる。長い目で見れば、55億円など簡単に取り返せると考えるだろう。
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