「定期的な異動が生産性を落としている」説は本当か:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
新年度がスタートした。新たな部署に配属されて、「うまくやっていけるかな」と不安を感じている人も多いのでは。4月に「定期人事異動」を導入しいている企業は多いが、このシステムは本当に効率的なのか。ひょっとしたら生産性を落としているかもしれない。
定期人事異動と生産性の関係
まず、(1)の「いろいろな職場や仕事を幅広く経験することでゼネラリストが育成できる」に関しては、確かに人事異動のおかげで日本社会にはゼネラリストが山ほどあふれかえったが、ではそのことが競争力や生産性につながっているかという大きな問題がある。
ご存じのように、日本企業の時価総額は、グローバルでみるとかなり低い。国内で時価総額上位にある企業の顔ぶれは十数前から変わっていない。そんな閉塞感満点の経済活動は、GDPにもしっかりと反映されており、日本は先進国のなかで唯一、成長が伸び悩んでいる。
いや、それは統計の取り方が欧米に有利なようになっているからだなんだと反論する人たちがいるが、どういう理屈をこねても、日本企業という「ゼネラリスト集団」が「結果」を出していない事実が覆ることはない。
(2)の「マンネリ化を防いで組織が活性化する」も同様で、新年度になるたびに会社のいたるところで歓送迎会が開かれ、「再スタート」「フレッシュ」などとテンションは高くなっているが、ではその新陳代謝が現場に良い効果を生んでいるのかというと、残念ながらそういう印象はほとんどない。よく言われるように、日本の労働生産性はG7のなかで最下位。労働現場ではパワハラや過労死が問題となっている。
ただ、冷静に考えればそれも当然だ。人事異動のたび大規模な引っ越しや膨大な引き継ぎ業務が発生する。日々の激務に加えて、「お金を生みださない雑務」にも追われて生産性が上がるわけがない。また、定期的に仕事のできる人間が抜けていくので、管理職はいつまでたっても人材採用・育成の無間地獄から抜け出すことができない。どんなに苦労して理想のチームをつくっても、春の訪れとともに解散させられる。これで心を病むなというほうが無理がある。
(3)の「ひとつの部署に長くとどまらないので腐敗・汚職を防ぐことができる」に関しても「幻想」に過ぎないのは明らかだ。
定期人事異動を繰り返す財務省や厚労省で、次々と耳を疑うようなずさんな改ざんが発覚したことからも分かるように、人事異動と組織の腐敗はまったく関係ない。閉鎖的な組織内でいくら人をぐるぐると回したからといって、不正を看過するような組織カルチャーがガラリと変わることはないからだ。
よく不祥事企業は「人事異動のない閉鎖的な職場だったので不正を防ぐことができなかった」みたいな調査報告書を出すが、これは真っ赤な嘘で、日本型組織では、不正を目の当たりにした「組織人」の多くは見て見ぬふりをするか、迎合することが圧倒的に多い。そもそも、人事異動などなくても、不正に走っていない小さなものづくり企業など世の中には山ほどある。
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