CXシリーズに救われたマツダの決算:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
マツダが17年度決算を発表。各地域での販売台数推移を見ると、同社のクルマは全世界で売れていることが分かる。そして、その結果の要因はCXシリーズなのだ。
さなぎの3年間
ここ最近で最も利益率の高かった14年の決算資料を見ると、台数・構成はマイナスどころか550億円のプラス。ただし販売費用は別枠で取られていて、こちらはマイナス192億円。つまり差し引き358億円のプラスである。一方急速に悪化した17年では台数・構成でのマイナスを出しているものの86億円に過ぎず、むしろ為替の差損で1027億円消し飛んでいる。
これらの数字からマツダの何が問題かと言えば、海外生産拠点の不足と、北米マーケットの販売不振だ。マツダは国内生産比率が高く、多くのクルマを輸出するために為替の変動の影響を受けやすい。現地生産化が進めば為替変動の直撃は免れる。それが分かっているので14年にメキシコ工場を稼働させ、海外生産量を増やした。またトヨタとの合弁新工場をアラバマ州に建設することを決め、21年に稼働させる予定だ。
併せて、北米のディーラー網の再構築を加速させている。今後4年間で約400億円かけて、次世代ブランド店舗への転換を進めていく。狙うのはブランド力の向上。いささか抽象的なのでその中身を具体的に言えば、残価の改善(中古車価格の維持)と正価販売(値引きの抑制)である。
実際マツダは生産能力が限界に近づき始めており、クルマが慢性的に不足気味である。それで利益を出していくには台数に依存できないため、アラバマ工場の稼働までは1台当たりの利益率を上げていくしかないのだ。値引きの抑制は今後3年間の緊急課題だ。この間、年間の販売台数増加は5万台に止める方針を打ち出している。逆に言えば、販売台数の拡大については、さなぎのように3年間をじっと耐えつつ、新工場が稼働する21年を待つしかないので、その間にどれだけ体質改善が進むかがキーとなる。
加えて、北米の主力となるCX-9、CX-5、アテンザの商品力強化が重要だ。ディーゼルが全く売れない米国ではマツダ得意のSKYACTIV-D 2.2の活躍の場がない。その割に大型の車両が中心となるため、低速トルクに優れた大排気量で低燃費のガソリンエンジンを駒に加えることが急務なのだ。
ここにテコ入れするために、マツダは現在夢の圧縮着火ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」を開発中だ。米国向けは恐らく3リッター級の直6ユニットになるはずで、これをアテンザとCX-9に搭載することになるだろう。となればFRモデルになる目算が高く、そのためには新たなシャシーの開発が求められる。
マツダは決算発表の中で次世代SKYACTIVシャシーについて言及し、従来コモンアーキテクチャーで1種類に絞ってきたシャシー群を「スモール商品群」と「ラージ商品群」に分けると発表した。ちなみにCX-3を中心とした120万台の車種群がスモール、CX-5を中心に、CX-8、CX-9など80万台がラージ群に組み込まれる。
なぜいまさら2つのグループに分けるのかについてマツダは200万台体制を目指す中では、全モデル共通のフレキシブル生産対応である必要がなく、それぞれにより適応させた2グループに分けるのだと言うが、仮にこれが筆者の仮説通りFFとFRでグループ化されるとしたら、生産ラインの都合上も理解できる。
マツダは利益率を悪化させる原因である為替対策とブランド対策にこれらの答えを用意した。それが予定通り機能するかどうか、それがはっきりするのは3年後である。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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