ようやく発表されたトヨタとスズキの提携内容:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
ここ数年、トヨタはアライアンス戦略に余念がない。自動車メーカーやサプライヤーにとどまらず、IT業界やサービス産業、飲食業など異分野との協業関係を構築している。こうしたトヨタの変化に敏感に反応したのがスズキの鈴木修会長だった。
緻密な戦略
日本にいると想像がつかないが、インドでは現在、生産が需要に全く追いついていない。売れて売れてクルマが足りないのだ。つまり生産キャパシティが低ければ、先に投資してキャパシティを増やした会社にどんどんシェアを奪われてしまう。スズキはこの面で不利だ。インド政府や現地資本と40年近く良好な関係を築いてきた以上、いざ投資は必要だと言っても、スズキの都合だけで資本を増やせない。つまり三人四脚状態なので、一番資本的体力が劣るメンバーのペースがボトルネックになってしまう。
だから「2」は非常に大きい。トヨタが現地資本と提携で設立したTKMで、スズキのクルマを生産できれば、目前の問題は解決する。トヨタの側はどうなのか? トヨタ側は「小さいクルマの開発は得意ではない」とすでに認めている。だからこそのダイハツやスズキとの提携である。トヨタはむしろそこをアライアンスの他メンバーに任せ、中型車以上にリソースを集中したい。加えて新工場の建設や広大な国土での販売店網の整備など、投資案件は山積みである。そこにトヨタの資本が生かせるとなれば、今後の展開は明らかに有利になる。つまりインドで40年間に渡って培ってきたスズキ・ブランドをトヨタの力で飛躍させる戦術がそこからうかがえる。
さらに、インドでは現在、カリフォルニアのZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制にならったインド版ZEVがスタートしようとしている。そこで遅ればせながら前述のEV C.A. Spiritに参加し、EVへの布石としている。
しかし、世界全体の流れを見れば、販売台数のうち一定台数をゼロエミッションにするZEV規制だけでなく、企業全体の平均燃費を下げることを義務付けるCAFE(企業平均燃費)規制もまた厳しくなっており、二正面作戦を戦わなくてはならない。ZEV規制だけ見ていてもダメなのだ。EVはZEVをクリアするために必須だが、価格低減が見込めないことから所詮は台数に限界があり、平均値を動かしてCAFEをクリアするための主戦力にはならない。平均燃費を向上させるためにはハイブリッドしかない。スズキがマイルドハイブリッドやハイブリッドに力を入れているのはそのためだ。
しかしながら、CAFEの難しいところは平均燃費を下げるクルマ、つまり、燃費の悪いクルマがヒットしたら全てがおしまいなところにある。つまりEVでもハイブリッドでもない普通の1番売れるクルマの燃費を上げないとリスクが増えてしまう。現在コンベンショナルなエンジンでは直噴によって気化潜熱で混合気の冷却を行い、ノッキングを防止する方法で圧縮比を上げ、燃費を稼ぐ方式が主流である。スズキでもすでに一部の上級モデルに採用済みだが、全モデルに採用するためにはまだコストダウンが必要で、今後も継続的に開発が必要だ。この直噴インジェクターの技術を持っているのがデンソーだ。「1」の「小型超高効率パワートレインに対し、デンソーとトヨタが技術支援」とはこのことだ。
恐ろしいのは「3」だ。インドは地勢的に非常に面白い位置にある。アジア、欧州、アフリカの3つのエリアに対して、アクセスが可能なのだ。仮にインドへの投資を強化し、インドの生産キャパシティを上げた後、インドの景気が冷えた場合にどうするかと言えば、長らく次々世代と言われているアフリカへの輸出拠点として活用する。すでに述べたようにインドは現在国内マーケットの需要が旺盛で、作るそばから売れていくが、仮に過当競争に陥って生産余力ができたとき、それをどう活用するかまでがプランに織り込まれている。
トヨタとスズキの提携が果たしてどこに落ち着くか、それが楽しみでならない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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