なぜ日大は炎上したのか? 原因は「オレはそんなこと言っていないおじさん」の存在:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
日大アメフト部が大炎上している。普段、大学にもアメフトにも危機管理にも関心のない人が、なぜこの問題に“参戦”しているのか。筆者の窪田順生氏は「オレはそんなこと言っていないおじさん」の存在を挙げている。どういう意味かというと……。
「オレはそんなこと言っていないおじさん」に優しい社会
内田前監督や井上前コーチとモロかぶりだが、彼らの主張に当のアメフト部員たちからダメ出しが続出したように、この釈明に対しても現役東芝社員たちが反論。結果、東芝の名声は地に落ちたが、これも日大の米倉顧問と同様、経営陣のみなさんは「ちっとも東芝ブランドは毀損(きそん)していない」と言い張って失笑を買った。
このように「オレはそんなこと言っていないおじさん」に対して厳しい視線が注がれるようになったひとつの要因は、2013年に大ヒットしたドラマ『半沢直樹』(TBS)の影響もあるのではないかと考えている。
二枚舌のパワハラ上司に「倍返し」するサラリーマンの復讐劇は、年齢・職業問わず多くの人たちが留飲を下げた。あの『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ)的な勧善懲悪ストーリーが支持されたことによって、「オレはそんなこと言っていない」という見苦しい言い訳で、「下」に責任を押し付ける偉いおじさんたちがここにきて「悪役」(ヒール)というパブリックイメージが定着したように思うのだ。
なんてことを言うと、「おいおい、そんな風に部下に罪を押し付ける人間はいつの時代でも悪役だよ」というツッコミが寄せられるかもしれないが、10年くらい前まで、組織人が「下」に責任を押し付けるのはそこまで後ろ指を指されることではなかった。もっと言ってしまうと、「上」を助けるため「下」が罪をかぶるのは、日本人の美徳とさえ考えられていたのだ。
例えば、いまも企業不祥事のケーススタディでよく引用される、雪印食品の牛肉偽装事件(2001年)。実行役だった5人は専務や常務など経営陣からの指示だったと警察に怒りをぶちまけたが、彼らは「部下の独断」と主張。結局、司法もそれをすんなりと認めて、無罪放免となっている。
ロッキード事件のときの大企業も分かりやすい。某大手商社の会長や専務の関与が疑われたところ、部下の総務課長と秘書課長が彼らのスケジュールを破棄。「証拠隠滅」で逮捕された2人は同僚たちから「組織人の鏡」「英雄」として褒め称えられた、と当時のマスコミが報道している。「上」に罪が問われぬように、「上」が口走ったことや、やってしまったことを「下」が全力でもみ消すのが、「世界に誇る日本のチームワーク」だった。
つまり、日本社会というのは伝統的に「オレはそんなこと言っていないおじさん」たちに優しい社会であり、日本型組織というのは、この手のおじさんたちが生き生きと過ごせるためのシステムだったと言っても過言ではないのだ。
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