社員の「自主性」どうすれば育つ? 30万円もらえる「何でもアリ」の研修に学ぶ:トラスコ中山の「白紙の部屋」
工具の卸売企業、トラスコ中山は「白紙の部屋」と呼ぶ研修制度を設けている。従業員に30万円を提供し、1カ月間好きな仕事をすることを許可するもの。社員の自主性を育てる狙いがあるという。
厚生労働省などは5月29日、シンポジウム「企業の成長戦略に不可欠な“人が育つ仕組み”」を開催。従業員のキャリア形成の分野で先進的な取り組みを行っている企業を表彰する「グッドキャリア企業アワード」を2016〜17年に受賞した企業が登壇し、自社の取り組みを紹介した。
中でも注目を集めていたのが、17年に「イノベーション賞」を受賞した工具の卸売企業、トラスコ中山(東京都港区)の研修制度「白紙の部屋」だ。
30万円もらえて何でもアリの「白紙の部屋」とは
2012年にスタートしたこの制度は、経営会議でのプレゼンテーション大会を勝ち抜いた社員に30万円の“軍資金”を支給し、1カ月間にわたって通常業務を離れることを許可するもの。現在は半期に一度実施している。
参加する社員は研修期間中、支給された資金を元手に、自ら考えた仕事に取り組む。社員が自主的に考えて行動する力を養う狙いで、「高い目的意識を持ち、それに向かって自ら考え、行動する状況を与えることで従来にない“発想の転換”を期待(プレスリリースより)」するという。
仕事内容は「会社のためになること」という条件を満たしていれば特に制限しない。研修中はオフィスに常駐する必要はなく、自宅やカフェ、地方や海外など、好きな場所で働いていいという。
責任者を育てたい
トラスコ中山で人事課・ヘルスケア課長を務める平山貴規氏は「年齢や部署関係なく、誰でも参加できる点が魅力の制度で、責任者になってくれる人を育てる目的もある」と話す。
「無条件で30万円を提供することは確かにリスクだが、やるリスクよりもやらないリスクの方が大きいと判断して導入に踏み切った」(平山氏)という。
期間終了後は、上層部の前で再度プレゼンを行い、成果を報告する。これまで採用された例はないが、社長から高評価を得た場合は新規事業として実際のビジネスに取り入れる可能性もあるという。
あえて「原宿」で店舗運営
これまでの参加者は、市場調査や海外周遊といった取り組みに従事したが、最も平山氏の印象に残っているのは昨春実施した「原宿での店舗運営」だという。
昨年5月に「白紙の部屋」に臨んだ社員は、DIYツールや工具箱のほか、米軍に納入しているバッグやブーツなどのミリタリー系アイテムを販売するセレクトショップ「PROTOOL SELECT」を6日間の期間限定でオープン。若者に対する認知度アップを図った。
平山氏は「店舗は“裏原宿”にオープンした。工具の卸売業社がおしゃれなエリアに店を構えた意外性がウケて、期間中は外国人など多くの来店者が訪れて大いににぎわった」と明かす。同店舗の公式Facebookページによると、6日間でのべ400人の客が訪れたという。
研修終了後のプレゼンも高評価だった。「社長は『他に優先すべき事業があるためすぐに事業化することは難しいが、しかるべき時期がきたら実際に始める可能性はある』との考えを示していた」と平山氏は振り返る。
平山氏は「『自覚に勝る教育なし』『自考自得』が当社における育成の精神。他社にはない取り組みを続けていきたい」と話している。
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