レスリング栄氏が溺れた「権力の罠」 根源にある“構図”とは:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
至学館大学の谷岡郁子学長は、栄和人氏のレスリング部監督解任を発表しました。「権力」を持った人たちの不祥事が続いていますが、権力そのものは悪者ではありません。何が権力を「悪」にしてしまうのでしょうか?
人は権力に群がる
男性は自らが権力の罠(わな)に溺れていることに気付かず、結果的に失職しました。彼が語っていた通り、いつしか「自分が法律」になり、相手の気持ちを考えることも、自らの行いを自省することも一切なかった。彼の言動に傷つけられた部下たちにより足をすくわれたのです。
そもそも権力を手にしている人はそうでない人に比べて、自らの行為を正当化する傾向が強い。これは膨大な研究から証明されています。
ある研究では、「約束の時間に遅れそうだからスピード違反でクルマを走らせる」という行為について、「権力のある」グループと「権力のない」グループに分けて評価してもらいました。その結果、権力のあるグループに属する人たちの多くが、「自分がスピード違反する行為」を「仕方がない」と回答。同じ行為を他者がやったときには「法律に違反するなど、許せない行為だ!」と厳しく攻撃するにもかかわらず、です。
また、彼が指摘する通り、人は権力を嫌うくせに権力に群がります。「私は権力なんか見向きもしないね!」と口をとがらせている人も例外ではありません。
古くから組織心理学や産業心理学の分野では、「何が指導者の求心力を高めるのか?」という研究に力が注がれてきました。
初期の研究では、指導者の「資質」、すなわち「性格」や「人格」が強調されていました。ところが、性格と組織の士気(モチベーション)の関連性をいくつもの事例で検証しようにも、一向にプラスの影響が出ない。むしろ、マイナスになることもあった。そこで「権力」という変数を投入したら、士気が動いた。さまざまな研究を積み重ねた結果、明らかになったのが「権力」の影響力だったのです。
「権力がある」と見なされている上司は、部下たちから話しかけられる頻度が高く、ちょっとした行動に周囲は好意を寄せ、上司からの言葉に高い満足感を抱き、組織の士気も高まることが分かりました。部下たちは「性格のいい上司」よりも、「権力のある上司」の方を進んで受け入れていたのです。
片やどんなに「性格のいい上司」であっても「権力がない」上司は、「あの上司は使えない」などと批判され、部下たちの士気は低下していました。その上司がどんなにいい人であっても「無能」と見なされることが、多くの実験や調査で報告されたのです。
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