“普通の会社員”には無縁!? 蔓延する「副業万歳論」のワナ:雇用ジャーナリスト海老原嗣生が斬る(1/5 ページ)
新進気鋭の雇用ジャーナリスト海老原嗣生が、働き方改革の実相を斬る。今回は「兼業・副業・ダブルワーク(Wワーク)推進」の陥穽を指摘していく。
現在、さまざまなテーマで進められている「働き方改革」――。その中には、日本社会の人口構成の変化や社会環境の改善から、必要不可欠な改革ももちろんある。一方、何となくの雰囲気論がまかり通っているだけで、深く検討してみると、市民権を得ている根拠が弱いと感じる議論も散見されるのが実態だ。これからしばらくの間、百出する「働き方改革」について点検したいと思う。
副業推進は3つの流れから
まず今回は、「兼業・副業・ダブルワーク(Wワーク)推進」をテーマとして考える。この話は、「長持ちする働き方」を考えるうえで重要なのだ。
根底にあるのは、リンダ・グラットン氏が著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』の中で説いた「2007年生まれの人はその半数が100歳以上生きる」という話である。いわゆる「人生100年時代」に、60歳や65歳で引退し、社会とのつながりが弱くなりながら余生を40年も送る――。これでは人間としての尊厳が保たれない。何より、成人して以降に40数年しか働かず、定年後は、年金で同程度の期間を過ごすようであれば、社会保障システムが破綻してしまう。だから、そのころには、75〜80歳まで現役生活を送るべきだ。
しかしいざそうなったときに、現状の働き方で75〜80歳まで労働が続けられるのか。このような議論から「長寿に耐えうる働き方を考える」という流れが生まれる。
この流れに合流したのが、会社や常識、国家などの外的な圧力に流されず、個を尊重して生きる「創造的自由主義(リバタリアンの一形態)」と呼ばれる人たちである。彼らは、現状の仕組みを反省したり改良したりする時に大きな力となりうる存在といえる。そこで、Wワークをすることにより(副業を持つことにより)、本業の会社と対等になろう、という主張が加わった。
さらに、安倍晋三政権下で進められる「戦後レジームからの脱却」という政策が、ここに相乗りをした。唯々諾々と企業の意思決定に従う日本型の働き方は、長時間労働の根源となっている。男女共同参画が根付く中で、育児や介護は誰がやるの? という問題が日に日に大きくなった。同時に、現状の日本型終身雇用制では、不調な会社・衰退産業から好調な会社・新興産業へとなかなか人が移っていかない。こうした悪弊を壊すためにも「Wワーク推進」は良きツールとなるということで、政府が旗を振ったのだ。
このように、「ライフシフト派」「創造的自由主義者」「アベノミクス」という3つの「異見」が合わさることで、Wワーク推進運動はいつの間にか奔流となっていった。
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