アテンザの課題と進化:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
マツダはアテンザを大幅改良して発売した。現モデルがデビューした2012年以来最大の商品改良であるとマツダは力説する。ところで、なぜマツダは今、大幅改良を行うのだろうか?
大幅変更の中身
さて、そんなわけでロングリリーフを余儀なくされる今回のアテンザの商品改良は力が入る。というか力を入れざるを得ない。何がどう変わったか、まずはそこからだ。
エンジンで言えば、CX-8で大幅改良されたSKYACTIV-D2.2ディーゼルユニットとCX-5で投入されたSKYACTIV-G 2.5ガソリンユニットが搭載された。ディーゼルは高応答のインジェクターを採用し、燃焼のピークを穏やかにするとともにレスポンスを改善した。ガソリンの方は気筒休止システムによって燃費の改善が図られている。特筆すべきはディーゼルとMTの組み合わせで、強力な中間加速を生かした走りは運転の楽しさを存分に味わわせてくれる。
しかし、アテンザの商品改良で最も大きいのは、第7世代で採用される第2世代SKYACTIVシャシーの技術が部分的とはいえ採用されている点だ。第2世代SKYACTIVシャシーのコンセプトは「人間の移動の原点は歩行である。だからクルマが走るということは歩行をどれだけエミュレート(模倣)できるか」にある。人体の基本は骨盤と背骨である。まずは歩行時の背骨の形状を運転時にも再現すること。なぜならば背骨はそのS字形状によって歩行時の路面からの衝撃を緩衝して脳を守り、同時に進行方向に向かって安定させているからだ。
そのためにはシートを徹底的に見直して、骨盤をしっかり立て、同時に背骨のS字カーブを維持しなくてはならない。タイヤ、サスペンション、ボディには人間の脚の機能を代行させる。足の裏の皮下脂肪のようにタイヤのトレッドをたわませ、土踏まずのアーチのクッションの代わりにタイヤのサイドウォールに衝撃を吸収させる。足首のように柔軟かつ、ぐらつかないハブの支持剛性を確立して、膝と腿の筋肉の作用をダンパーとスプリングで代行する。
それらの動きはクルマのボディを介し、シートを経由して骨盤に伝えられるので、そこで振動の伝達の混濁を防がなくてはならない。ボディは筐体剛性を高めるだけでなく、床板やシートフレームなどの振動伝達経路の部分剛性を上げ、振動が構造部材の各部を回折して遅れて入力することを極力抑え込むべく補強された。実際新旧のアテンザを荒れた路面で乗り比べると、かかとに感じる振動が軽減されているのが分かる。それは乗り心地の質感向上に大きく貢献している。
しかしマツダには悩みどころもある。「Be a driver」をうたうマツダは、スポーティな走りを重視する。ところが、アテンザのようなフラッグシップモデルでは乗り心地の洗練度も同時に求められる。15年の商品改良では、この乗り心地改善を頑張りすぎて、タイヤが路面をつかむ感覚のフィードバックが希薄になっていた。他媒体で書いた過去記事をひも解くと「筆者はこれも必ずしも新しい方が良いとは思わなかった。確かに振動やショックは減っている。ただ、旧型のあるものをあると素直に伝えるサスペンションもそれが欠点になるほどのものではない」と書いている。エンジニアが狙った通りの乗り心地改善はできているが、その狙いで失ったものもあるのだ。そんな思い出話をするのは理由がある。
今回の改良はシャシーの考え方そのものの大変革であり、その効果は決して小さいものではない。実際、市街地走行での乗り心地とフィールの両立は素晴らしい仕上がりになっていた。しかし、最新の技術は往往にして熟成度は求められない。穴があるのだ。舞台を高速に移すと、強く短い周期の突き上げは、受け止めきれずに背骨に強く伝わる。これに関してはサスペンションに加えてシートの減衰も足りていない。低速での乗り心地が申し分ないだけにこれは少し気になった。
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