ダイハツの未来を決めるミラ・トコット:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
2017年3月にリブランディングを敢行したダイハツは、「Light you up」をキャッチコピーに掲げた。そうした中で発売されたのがミラ・トコットだ。初めてそのデザインを見たときに衝撃を受けた。その理由は……。
女性仕様を超えてユニバーサルデザインに
さて、このミラ・トコットのプレスリリースが届いた時、筆者はちょっとした衝撃を受けた。リリースに貼り込まれた小さな写真でもそのデザインの理詰めの正しさがすぐに分かった。軽自動車との比較で持ち出すのはどうかと思わないでもないが、初代レンジローバーのパッケージの理詰め感とシンクロするものがあったのである。
むしろ筆者はこれを女性仕様だとは思わない。誰にとっても使いやすいユニバーサルデザインであり、猫も杓子も「プレミアム」志向な世相にあって、ダイハツのキャッチコピー「Light you up」をまっすぐに表現した正しい道具に見えた。
ドアを開けて乗り込んだ瞬間から好感度が高い。「あまり大きなクルマは嫌」という女性の声に応えて車高はFFモデルで1530mmに抑えられているが、それでも頭上空間が十分以上にあり、何より乗り降りが楽だ。昨今のクルマは首をかがめないと乗り降りできないものが多いが、全く気を使うことなく着座できる。女性のための企画商品ではあるが、実は筋力の衰えた高齢者にも優しいパッケージだ。
シートはたっぷりしたサイズで座面も背もたれも大きめだ。クッション感は、表皮の素材感と合わせてなかなか良い。全体として印象は良いのだが、満点はあげられない。シートフレームの剛性不足と座面前端の両角部分の硬さ不足がもったいない。本当は腿を両側から少しでもサポートして欲しい。ランバーサポートは良い出来だが、シートバックが反り過ぎていて肩甲骨周辺が浮いてしまう。これだとクルマが揺れたとき、体幹の筋力で支えなくてはならない。厳しいことを言えば女性への優しさが足りていない。
スタート時のパワートレーンの力の出し方はなかなか上手だ。タイヤが路面を押している感じがちゃんとつかめる。これは前走車に追従している時の緩加速制御も同じで、微細な速度制御能力はなかなか高い。もちろん絶対的なパワーはないので、加速度が高い領域ではエンジンが吹け上がってしまうが、音さえ気にしないのなら加速の仕方そのものは穏やかで扱い易い。
乗り心地も良い。27インチの自転車を立てて積まなくてはならないタントは、その背の高さが重心を引き上げ、高い重心を軽の狭いトレッドで支えるにはばねを硬くするしかないので乗り心地はかなり厳しい。女性仕様で言えばムーブ・キャンパスもそこが辛い。それらに比べたらトコットの乗り心地は月とスッポンと言って良いだろう。
ステアリングは良い具合にスローで、キリキリしない程度に正確。アピール度は低いかもしれないが扱いやすさと違和感の少なさで好印象だ。
さて結論だ。ミラ・トコットはデザイン的にも世界的にあまり類を見ない方向性を示し、人々の生活を照らす快適な道具に仕上がっている。ハードウェアとしての出来も、トータルで高い水準にある。今筆者が軽の中で何を推すかと言えばトコットを推す。
もしかすると、このクルマは今後のダイハツのクルマ作りの方向性に影響を与えるのではないかと思っている。それはアライアンスの中でダイハツがユニークな個性を発揮していくために大いに役立つに違いない。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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