マスコミの「感動をありがとう!」が、実はとってもヤバい理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
「感動をありがとう!」の大合唱が日本中に溢れている。『24時間テレビ』で、みやぞんのトライアスロンに心が打たれた人も多いだろう。甲子園で、1人のエースが881球を投げたことに勇気をもらった人もたくさんいるだろう。こうしたムードに対して、筆者の窪田氏は違和感を覚えるという。どういうことかというと……。
戦争美談を報じ過ぎて、思考が停止
つまり、1933年の段階では、海軍大佐でさえ、「人間爆弾」は人道的に問題がある戦術だと明言しているのだ。にもかかわらず、同時代のマスコミ人たちは「人間爆弾」を美談として大絶賛して、軍に命じられるまでもなく映画、ラジオ、書籍化へと突っ走っている。
なぜマスコミ人たちのモラルが、軍人を上回る勢いで壊れてしまったのかというと、全ては「感動至上主義」のせいだ。
もっと感動を、もっと美談を、と追い求めていくことは、何やら素晴らしく正しいことをやっているような錯覚に陥るが、実は求めているのは「感動」だけなので、思考停止していく。自分の頭で考えないので、次第にモラルが麻痺(まひ)して、世の中が求める「感動」を機械的に触れ回る作業しかしなくなるのだ。
戦時中、日本のマスコミが狂ったのは軍部のせいだと言われている。その側面を否定するつもりはないが、何から何まで軍のせいにする被害者根性が気にくわない。
当時の異常な「感動ありがとう!」の紙面を見れば、自分たちで勝手に狂った部分も多々あるのは明らかだ。そういう歴史に学べば、東京五輪を前にやたらと「感動」を触れ回るマスコミが狂気に走るのは容易に想像できる。
運動部のシゴキ、ボランティア、ブラック企業など理不尽な仕打ちで殺された若者を「爆弾三勇士」のように、国のために命を捧げた英雄として持ち上げるのは時間の問題ではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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