塚原夫妻と谷岡学長に共通する、組織を混乱させる言動:スピン経済の歩き方(4/7 ページ)
マスコミの定番コンテンツ化している「スポーツとパワハラ」が、またまた新シリーズに突入した。女子体操選手が日本体操協会の塚原夫婦に対して、パワハラを受けたと訴えたのだ。報道対策アドバイザーを務める筆者は、この問題をどのように見ているのかというと……。
「暴力を振るうほど自分のことを大事に思ってくれた」という錯覚
では、なぜ彼らは配慮をしないのかというと、先ほど述べた「人より努力をした人間は、人より素晴らしい栄冠をつかむ」というスポ根的思想のせいだ。
塚原夫妻や谷岡氏はそれぞれの世界の発展に大きく貢献してきた「大功労者」だ。そういう誰にも文句のつけようのない努力をしてきた自分ならば、素晴らしい栄冠、つまり特別待遇を受けるのは当たり前。そのような特権意識が、周囲への配慮のない言動を生み出して、私物化批判へ招いてしまっているのだ。
同じような問題は、一代で会社を大きくした創業社長などにもよく見られる。誰よりも努力をして成功を収めた自分は、他の人間が従わなければいけないルールも免除される特別な存在だ。そんな特権意識が、会社私物化疑惑や、「独裁」「恐怖政治」という批判を招く。
努力至上主義に毒されると、その批判も耳に入らない。「なぜたいして努力をしていない連中から文句を言われなければいけないのだ」と余計に頑な態度になってしまうのだ。
次に(B)の「選手軽視」については、(2)の「どんなに辛いことであっても、がんばればきっと乗り越えられる」という思想が大きく影響を与えている。
塚原夫妻は、暴力指導で厳しい処分を受けたコーチにそれでもついていく、と主張する女子選手に対して、密室で執拗(しつよう)に関係を切るように迫った。
そこに引き抜きの意図があったかどうかはさておき、ここで重要なのは、誰が見てもコーチを心酔している彼女に対してコーチを否定をする、という後々問題になるような無謀な説得方法を、なぜとったのかということだ。
暴力を振るったと問題になっているコーチに小学5年生から8年間、指導を受けていて、家族ぐるみで付き合ってきた。いわば師であると同時に、兄であり父でもある。その結びつきの強さは、髪を引っ張られ、たたかれていたにもかかわらず、コーチの暴力を協会側に認めなかったことからも明らかだ。
これはまた本件とは別の問題だが、日本のスポーツ界では「暴力=愛のムチ」という考えがいまだに強い。海外ではどういう理由があろうとも、指導者が選手に手をあげれば逮捕や裁判沙汰になるが、日本では「本人たちがいいならそれでいいじゃん」という扱いだ。むしろ鉄拳指導は時に、「暴力を振るうほど自分のことを大事に思ってくれた」という錯覚を招き、強固な信頼関係を築くことがある。
体罰で部員を自殺に追い込んだ桜宮高校のバスケ部顧問を、擁護する子どもや保護者がいたのはこれが理由である。
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