日本人が「ある程度の暴力は必要」と考える、根本的な原因:スピン経済の歩き方(7/7 ページ)
全国で「暴力指導」が次々と明るみとなっている。会社、学校、クラブ、家など、あらゆるところで暴力指導が日常的に行われているわけだが、なぜ日本人は「ある程度の暴力は必要」と考えるのか。その思想には根深い問題があって……。
暴力指導の本質は「信仰」
では、なぜそこまで渡辺は子どもに「軍服もどき」を着させることに執着したのかというと、親交の深い、森有礼の影響だと言われているのだ。130年以上が経過しても、いまだに我々がなんの疑問も抱くことなく、当たり前のように子どもたちに軍服を着させていることを踏まえると、平成日本の教育現場も、当たり前のように「軍隊」をひきずっていると考えるのは当然なのだ。
森が目指した「教育現場と軍隊の融合」。その是非はさておき、どういう結果を生むかだけは明らかだ。それは、世界中の軍隊でたびたび報告される「いじめ」や「暴力」という問題が教育現場で再現をされることだ。
寄宿舎に入れられた師範たちの証言がまとめられている、唐沢富太郎の『教師の歴史』(創元社)には、この教師育成施設で、「四年生は神聖、三年生は幹部」「鉄拳の乱下」など体育会運動部のベースとなる価値観がまん延していた事実が無数に記されて、以下のような問題も指摘されている。
「師範の寄宿舎生活には極端な軍隊的な階級制が存していたのであるが、これに伴って併発した現象が上級生の下級生いじめということである」(P.60)
厳しい上下関係のもとで暴力とハラスメントを受けながら「師範」となった人々が、教育現場に出て子どもたちに、自分が受けた教育をどのように「再現」するのかというのはもはや説明の必要はないだろう。
1949年の親たちが暴力を我慢できないのは、すべてこの森の教育改革の賜物である可能性が高いのだ。
よく日本人の暴力は、軍国主義が原因だという話になることがあるが、正確には「教育現場が軍隊になった」ことが大きい。そして、教育が恐ろしいのは、中国や北朝鮮の反日教育などをみれば分かるように、パンデミックのごとく爆発的に社会に広まって、それが長く尾を引く点にある。
顔をひっぱたかれ、髪を引っ張られて18歳の少女が「暴力はなかった」と訴えた。その親も、娘が暴力を受けているのを知りながら、その指導者を「信頼している」とおっしゃっていた。その構図を見て、「宗教みたいね」と言って日本中から叩かれた人がいた。確かに、相手の気持ちに寄り添わない不適切な発言であって批判されてしかるべしだが、実は本質的なところでは、それほど間違ったことは言っていない。
暴力指導とは日本人にとって、理性や合理的思考を超越した、もはや信仰のような存在なのだ。
神を信じる人に対して、神を否定しても聞く耳を持つわけがない。「何も知らないお前に何が分かる」「あの素晴らしい体験があったから今の自分がいるのだ」――。そんなややこしい反論がきて、平行線だろう。「愛のムチ」に対する信仰も、これと全く同じだ。
どんなに「暴力はダメよ」という社会になっても、ひっそりと一部の熱心の「信者」が隠れキリシタンのように守られていく。それが日本人にとっての「体罰」なのかもしれない。
これからも日本ではこっそりと暴力指導が続いていくのだろう。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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