過熱する「加熱式たばこ」競争が、“個人情報争奪戦”になってしまう理由:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
加熱式たばこ「glo」「IQOS」「Ploom TECH」のCMを見たことがある人も多いかと思うが、ちょっと気になることがある。公式Webサイトに飛んで、情報を得ようとすると「個人情報」を求められるのだ。どういうことかというと……。
たばこの未来は明るくなさそうだ
筆者も若いころは喫煙者だったが、そのきっかけは、愛煙家の方たちが主張する「味」や「心が落ち着く」なんてことではなく、漫画『ビー・バップ・ハイスクール』のようなヤンキー漫画、『ルパン三世』のようなアニメ、そしてタランティーノなど海外の映画を見て純粋に「かっこいい」と思ったからだ。
事実、中高生が喫煙してしまう理由を調査すると、必ずトップに上がるのが「好奇心」である。
だが、近年の逆風で「たばこ」に好奇心を抱く子どもも減っている。島根県の高校生を対象に「初めてたばこを吸ったきっかけ」を調査したところ、1998年は「遊び(好奇心から)」と回答したのが30%をゆうに超えていたのに、2010年には5%を切っている。もはや現代の若者たちにとって、「たばこ」は「かっこいい」「なんか面白そう」などと好奇心を抱く対象ではないのだ。
こういう時代の流れに加えて、IQOSやglo、プルーム・テックのユーザーが増えていけば、未来の若者たちにとって、「たばこ」は、こんな「かっこ悪いイメージ」になってしまうかもしれない。
「個人情報と喫煙習慣を吸い上げられるデバイスで、気がつけばニコチン中毒にさせられるやつでしょ」
いずれにせよ、何かとつけて「自由」や「権利」を主張される愛煙家の方たちが、大企業に個人情報をむしり取られたあげく、データを吸い取るデバイスによって管理され始めているとしたら、これほど皮肉な話はない。
加熱式たばこ愛好家が主張する「紙巻きたばこより健康リスクが少ない」「匂いもしないので禁煙店で吸ってもヘッチャラ」についても、アメリカ食品医薬品局(FDA)をはじめ、多くの研究者が否定的だ。
「たばこの未来」は、CMで触れ回れているほど明るくはなさそうだ。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
関連記事
- 「アイコス」「グロー」「プルーム・テック」は何円に? 10月に値上げするたばこ銘柄まとめ
10月からたばこ税が増税となる。たばこメーカー各社は、紙巻きたばこ・加熱式たばこなどの各商品を10月1日から値上げする。各社が値上げする銘柄をまとめた。 - 日本人が「ある程度の暴力は必要」と考える、根本的な原因
全国で「暴力指導」が次々と明るみとなっている。会社、学校、クラブ、家など、あらゆるところで暴力指導が日常的に行われているわけだが、なぜ日本人は「ある程度の暴力は必要」と考えるのか。その思想には根深い問題があって……。 - モスバーガーが「創業以来の絶不調」である、もうひとつの理由
業界第2位のモスバーガーが苦戦している。「創業以来2度目の絶不調」とも言われ、あれが悪い、これが悪いとさまざまな敗因が取り沙汰されている。どれも納得のいく話であるが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。それは……。 - マスコミの「感動をありがとう!」が、実はとってもヤバい理由
「感動をありがとう!」の大合唱が日本中に溢れている。『24時間テレビ』で、みやぞんのトライアスロンに心が打たれた人も多いだろう。甲子園で、1人のエースが881球を投げたことに勇気をもらった人もたくさんいるだろう。こうしたムードに対して、筆者の窪田氏は違和感を覚えるという。どういうことかというと……。 - 剛力彩芽が叩かれる背景に、日本人の国民性
タレントの剛力彩芽さんが、ネット上で壮絶なリンチにあってしまった。交際宣言したスタートトゥディの前澤友作社長と同じタイミングで、ロシアW杯を観戦した写真をInstagramにあげたところ、批判が殺到したのだ。それにしても、なぜこのような「いじめ」が後を絶たないのか。 - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.