「生産性」に潜む“排除”の論理 新潮45事件の薄気味悪さ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/6 ページ)
『新潮45』に掲載された杉田水脈衆議院議員のLGBTに関する寄稿から始まった炎上事件は、同誌の休刊が発表される事態に。杉田氏の主張にある「生産性」は、社会に潜んでいる“ある価値観”を表面化させた。それは……
産業革命が「障害者」という区別を生み出した
「障害を生み出す社会」とはどういう社会なのか?
「身体に障害を持つ人が、“障害者”と区別されるようになったのは、産業革命と大きく関係している」。こう説くのは日本における障害学の第一人者である、東京大学先端科学技術センターの福島智教授です。
産業革命によって、大量生産構造に適合できる「歯車としての人」が誕生しました。歯車としての人は、生産性を上げることだけを目的に存在します。その結果、短時間で、効率的に、いかなる要求にも応えられる、バリバリ働ける「人」が標準(普通)になってしまったのです。
「生産活動にプライオリティをおいている社会である以上、障害者は社会における“無駄な人”。より効率的、目的合理的に行う社会活動の潮流が進めば進むほど、その中で無駄だと見なされる人の位置はシリアスになり得る。どこまで社会を効率化する必要があるのか? 立ち止まって考える必要があるのではないか?」
福島教授はこう訴えます。つまり、障害者(=身体に障害がある人)という概念は、「正当に働けない人を見分けるためのもの」でしかないのです。
福島教授は3歳で右目、9歳で左目を失明、18歳のときに突発性難聴で失聴した、全盲ろう者です。1983年、20歳の“福島青年”は、盲ろう者としては日本で初めて大学に進学。くしくも今話題の東京都立大学(現・首都大学東京)です。そして、経歴を重ね、全盲ろう者として初めて東大教授になりました。
私は、福島先生は「障害者ではなかった」と考えています。先生を取り囲む世界の人たちは、目も耳も聞こえない“福島青年”を決して排除しなかった。
「生産活動にプライオリティをおいている社会である以上、障害者は社会における“無駄な人”」という価値観が、福島先生の半径3メートルの「社会」には存在していなかったのです。
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