自動車メーカーの下請けいじめ?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
自動車メーカーがサプライヤー(下請け)に価格低減などの厳しい要求をすることがしばしばある。このことと「いじめ」が本当にイコールなのだろうか。そもそもメーカーは下請けをいじめるメリットがあるのか?
見るべき指標の構造
投資家は必ず企業の将来性を見る。自動車メーカーの場合、将来性には基礎的な要素と変動要素があり、基礎的な要素を最も単純化すれば、1台当たり利益と販売台数の積が決める。これに金利や為替、品質関連費用(リコール対策費)や災害などによるリスクなどの変動要素が加わるが、変動要素は不確実性が高く予想は極めて困難だ。
つまり、将来性の指標のうち、投資家が事前に折り込めるのは、基礎的要素である1台当たり利益と販売台数の積なのだが、1台あたりの利益は数値として求めることが難しい。
よく原価の話が取り沙汰されるが、販管費や間接部門の経費を車種ごとにどう按分するかは、ハンドリング次第になる。売り上げ比率で按分するか、粗利益比率で按分するか、頭数で等分するかなど方法はいくらでもあり、どれが正解とも間違いとも言えない。
例えば利益が出ないことが最初から織り込み済みであっても販売しなければならない製品はあるし、それを担当した社員が成果報酬にされたらそんな製品は誰もかかわりたがらない。だから粗利益で按分することには一定の意味がある。
しかし一方で、どの製品が会社に利益をもたらしているかを明確化するためには頭数均等割の方が明確に結果が出るし、翌年度の予算配分をどうすべきかを考えるならばその方が正しいといった具合だ。
正解が1つでない以上、1台あたり利益は、通期決算が出てみないと分からないし、決算で分かるのは全販売台数の平均値のみで、結局モデルごとの利益率は外の人には分からない。なので、利益率に関しては、単純に高額商品ほど利益が多いという原則に照らして、過去の決算書から推測するしかない。
結局のところ、投資家が動的な変動をほぼリアルタイムに見られるのは販売台数しかない。だから自動車メーカー各社はリリースや経営レポートで常に販売台数を告知するし、投資家もそれを重視する。
たまに「台数を追い求めることに意味はない」などと言う人がいる。それはそれでひとつの見方だと思うが、そう言う人は自動車専門誌で素敵なグラビアと詩的なインプレッションを読んでいた方が幸せだと思う。ビジネスニュースとしての自動車記事で台数を念頭に置くなと言うのは、日本経済新聞の紙面から株価という単語を排除しろと言うのと同じことだからだ。企業の価値だって株価で全てが決まるわけではない。理念も社会貢献も大事だ。だがそれはビジネスニュースに株価情報がいらないことを意味しない。
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