障がい者が働く大繁盛の「チョコ工房」設立した元銀行マンの決意:熱きシニアたちの「転機」(5/5 ページ)
定年後を見据えて「攻めの50代」をどう生きるのか。新天地を求めてキャリアチェンジした「熱きシニアたち」の転機(ターニングポイント)に迫る。4回目は障がい者を雇用するチョコ工房「ショコラボ」を起業した元銀行員の伊藤紀幸さん(53)。2018年11月1日に7周年目を迎えるショコラボの伊藤さんに話を聞いた。
「お涙ちょうだい」では事業が立ち行かない
かくして、2012年11月、障害者の就労支援に取り組む一般社団法人AOHを設立。横浜市から福祉事業所としての指定も受け、全国初となる福祉事業所のチョコレート専門工房「ショコラボ」が産声を上げた。伊藤さんが47歳の時だった。
開業当初はトラブルも絶えなかった。開業2年目、横浜中華街で試食販売をした時のこと。味を気に入り買ってくれた人も多かったが、レジでの返品も相次いだ。中身が少なかったり、きちんと封がされていなかったりと、不良品が多数、混じっていたためだ。
伊藤さんは、ミスを減らすためにはやる気を引き出すのが一番と考え、さまざまな工夫を試みた。例えば、食育活動の一環として横浜市内の小学校で、ショコラボのメンバーが先生役となり小学生にチョコ作りを指導する特別授業を開いたことがあった。授業の後でメンバーが書いた感想文には、「ありがとうと言ってもらってうれしかった」「小学生が言うことを聞いてくれて自信がついた」など、自尊心や自己肯定感に満ちあふれる言葉が並んだ。
もちろん、「お涙ちょうだい」だけでは、事業として立ち行かないことは重々承知している。だからこそ、実績のあるパティシエに指導を仰いだり、上質の原料を取り寄せたりするなどして、品質の向上にも努めてきた。こうした数多くの努力の上に、今のショコラボがある。
現在、ショコラボで働く障がい者たちが受け取る月給は3万1000円(2018/3末期実績)。世間の相場の約2倍という。「充実感はある。しかし、やるべきことはまだ山ほどある」と伊藤さんは前を見据える。
著者プロフィール
猪瀬聖(いのせ ひじり)
慶應義塾大学卒。米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。日経では、食の安全、暮らし、働き方、ライフスタイル、米国の社会問題を中心に幅広く取材。現在は、主に食の安全やライフスタイル、米国の社会問題などを取材し、雑誌などに連載。また、日本人の働き方の再構築をテーマに若手経営者への取材を続け、日経新聞電子版などに連載している。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。
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