「タクシーに道を間違えられた」「タクシーに遠回りされた」「タクシーが渋滞にはまって、料金がかなり高くなってしまった」――。このようなトラブルを経験したことがある人は多いでしょう。ですが、支払いの場では文句を言いにくいのも事実です。
こうしたトラブルが起こったとき、増額した分の運賃の支払いを拒否することはできるのでしょうか? 弁護士法人プラム綜合事務所の梅澤康二弁護士に聞いてみました。
立証する必要性あり
――タクシーが道を間違えたとき、増額した料金を支払う義務はあるのでしょうか。
梅澤弁護士: タクシー会社が故意または不注意で道を間違えた結果として料金が加算された場合、支払いを拒否することは可能だと考えます。ただ、形式としては「増額分の料金を損害としてタクシー会社に請求する」流れとなります。
タクシー会社との契約には通常、国土交通省が定める決まり「一般乗用自動車運送事業者運送約款」が適用されます。同約款の8条には「その運送に関し、(タクシー会社は)旅客が受けた損害を賠償する責任を負います」といった記載があります。
ただ請求する上では、消費者は自ら「タクシーの運転行為によって、料金が本来支払われるべき金額から増額された」という事実を、証拠収集などによって立証しなければなりません。
この立証のハードルは相当に高いので、「通常の数倍の料金になってしまった」「運転手が目的地を通り過ぎてしまった」などの分かりやすい事例でない限り、増額分の請求(支払拒否)は困難ではないかと考えています。
――タクシーが道を遠回りをした場合はいかがでしょうか。
梅澤弁護士: これについても、遠回りによって明確な損害が発生したことを立証できれば、増額分の料金を請求することは可能だと考えます。
しかし、乗客が遠回りだと判断したルートが、実はその日の交通事情を考慮した合理的な選択だった可能性もあります。この場合のように、運転手が選んだルートに正当性があったことが立証された場合には、増額分の支払いを拒否することはできません。
――タクシーが渋滞にはまったせいで料金が増額した場合も同じでしょうか。
梅澤弁護士: はい。これまでの質問と同様、運転手の不注意によって渋滞に巻き込まれ、その影響で料金が増額されたことを立証できるのであれば、請求は可能です。一方、運転手側に不注意がなければ請求はできません。
しかし、渋滞の発生は流動的であり、確実に予想・把握することが困難であることを踏まえると、乗客側で損害の発生を立証することは極めて難しいのではないでしょうか。
(1)目的地までに渋滞しているルートとそうでないルートが明白に存在し、(2)混んでいないルートを指定したにもかかわらず、(3)運転手が無視して渋滞しているルートをあえて選び、(4)その結果高額な料金を請求された――といった極端なケースでない限り、増額分を支払ってもらうことは難しいでしょう。
――万が一、こうした悪質なケースに遭遇した場合はどうすればいいでしょうか。
梅澤弁護士: 運転手とのやりとりを録音するなと、タクシー会社に落ち度があったことを示す客観的証拠を確保しておくことが、交渉に臨む上で望ましいと考えます。
(文責:株式会社アシロ 「あなたの弁護士」編集部)
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