女性の昇進意欲を左右する基幹的職務経験:何が必要か?(6/6 ページ)
政府は女性管理職の割合を2020年までに少なくとも30%程度とする目標を掲げている。しかし、この「2020年30%」という目標の達成は厳しい状況にあるのだ。その障壁の1つとなっているのが、女性の昇進意欲を高めることである。
「遅い選抜」構造におけるキャリア形成の遅れ
さらに女性の昇進意欲に影響を与えていると考えられる「遅い選抜」という構造も見逃せない(※11)。すなわち、一般に、多くの日本企業では長期雇用を前提として社員の定着やモチベーションの維持を図る観点から、昇進格差を早い段階から付けないように選抜時期を遅らせている。
企業にとって「遅い選抜」の仕組みは、時間をかけて管理職に適した人材を選抜できるという利点がある。
だが、他方で、管理職へ選抜される時期が、女性にとっては出産・育児のタイミングと重なることが多いという現実がある。家庭と仕事を両立させるための負担が重いタイミングと昇進のための競争が重なることは、それでなくとも基幹的職務経験の男女差という問題がある中、女性に不利に働く可能性がある。管理職への選抜時期に何らかの負担が重なってもそれを女性が乗り越えるには、その時点での昇進意欲が維持されていなければならない。
女性の昇進意欲が勤続5〜9年目に低下しないよう、基幹的職務経験をまずは男性と同等に、場合によっては男性よりも早めに積めるような体制が求められるだろう。これは本レポートの冒頭で述べた「女性社員の意識」が課題としている企業側としても、能力と意欲のある女性の管理職登用へ向けたソリューションになり得る。
女性の活躍を促進するには、仕事と家庭の両立が図れるような職場環境を整備し、男性と同じように配置転換の機会が得られることが求められるのは当然である。その上で、女性の昇進意欲を高めるためには、企業は結婚や出産といったライフイベントが本人にとっても会社にとっても問題になる節目とならないようにするという観点に立ち、可能な限り早い段階から基幹的職務をできるだけ多く経験させることが重要である。
基幹的職務の経験は、課長級以上の管理職に登用される直前の段階では遅い。女性の昇進意欲を高められるかどうかは、管理職の前段階である係長級のポジションに就く前、遅くとも勤務10年目までに基幹的職務をどれだけ経験できるかがカギである。
※11 「遅い選抜」についての詳細は、小池和男・猪木武徳 (2002)『ホワイトカラーの人材形成―日米英独の比較』(東洋経済新報社)を参照。
(菅原佑香/大和総研 政策調査部 研究員)
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