MaaSと地方交通の未来:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
地方課題の1つに高齢者などの移動手段をどうするかという話題がある。そうした中で、MaaSやCASEが注目されているが、事はそう簡単に進まないのではないだろうか。
ここ最近、自動車に関するニュースの多くに含まれるキーワードは「MaaS」と「CASE」である。
この連載をご愛読いただいている方々にはすでにおなじみの言葉だと思うが、MaaS(Mobility as a Service)とは、「移動を伴うサービス」を意味する。これまで移動手段としてのクルマを売るビジネスで完結していたところを、利用するさまざまなシチュエーションを丸ごとサービスにするということだ。
例えば「旅行」。クルマはその中の極めて部分的な手段に過ぎず、クルマでの旅行を前提とするのであれば、自動車旅行にふさわしい目的地や観光地、宿やアクティビティがあり得る。
それこそ最新の四輪駆動車で真冬の八甲田山越えと雪化粧の温泉を楽しみ、ウィンタースポーツとしてのスノーモービルの体験をして、帰路はお座敷列車で車窓の雪を楽しみながら地酒を楽しんで帰ってきたって構わない。
あるいは、南の島で林道走行を楽しんで、シーカヤックかシュノーケリング体験でもして、夜は人里離れた山中で天体観測をしながらグランピングでも良い。
これまでの固定概念であった「クルマを買ってもらう」というゴールではなく、「移動」の周辺で発生する全てをビジネスパッケージにしてしまおうという考え方だ。
考え方は昔からあるカスタマーリレーションマーケティング(CRM)の延長だ。「こういう属性の顧客(カスタマー)は、同じ関係性(リレーション)でこういう消費をするはずだ」という予想に基づき、その人の財布から他の企業に支払われている支出を自社に囲い込むという戦術だ。
米Amazonの発展経過で考えると分かりやすい。「本を通販で買う人は、多忙であるか、居住地の利便性の関係で、実店舗で自由に商品を買えない可能性が高い。ならば他にもさまざまな商品を通販で買いたいと考えているはずであり、それらが同じインタフェースのコマースサイト、つまりプラットフォームからワンストップで買えれば利便性が上がる」ので、ビジネスの成長が見込める。
CRM的ではないMaaS
MaaSに関してはこういう企業のCRM的志向でドライブされる収益モデルと、もうひとつ社会的要請でドライブされるインフラ代替モデルがある。例えば、免許証を返納した後期高齢者の病院への送り迎えと、買い物を援助するような切実なニーズを満たすビジネスがインフラ代替モデルだ。
ご存じの通り、日本は少子高齢化へまっしぐらであり、地方の高齢化過疎化が問題になっている。こういうエリアでのモビリティの効率を考えると、鉄道は最早維持するのが難しい。鉄道はエネルギー面から見れば輸送効率が高いが、その効率故に小規模運営が難しい。大量輸送でこそ効率を発揮するが、反対に規模が小さくなるとインフラの維持にとてつもない赤字を垂れ流し続ける。仮に赤黒トントンの運営ができていたとしても、大雨や土砂災害で線路に被害が出れば巨額の復興費用が捻出できない。
鉄道の敷設が進んだ時代は、鉄道によって地域が発展繁栄し、地域人口が増えていくことが前提になっていたから、過疎地域に鉄道を敷設することが正義とされてきたが、現在の赤字ローカル線の状況を見ると、それはすでに「兵どもが夢のあと」になったことを認めるところから始めないと再出発できない。
大手メディアは、これをCASEで解決すれば良いと簡単に言うが、そんなに簡単な話とは思えないのである。CASEとは、Connected(つながる)、Autonomous(自律走行)、Shared(共有)、Electric(電動)の頭文字をつなげた造語だ。
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