“弱小”だった水族館の館長が「トヨタ本」から見つけた組織活性化のヒント:ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(4/4 ページ)
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。
館長の危機感。「景気のいい現状に甘んじていたら、すぐに客がいなくなる」
竹島水族館の単独制多担当持ちは飼育・展示だけではない。お土産の開発や販売、広報も事務員任せにせず、飼育員たちが奪い合うようにして担当している。ただし、これらは外部との折衝能力を要求されるため、現在のところは館長の小林さんと副館長の戸舘さんがやらざるを得ない状況だ。小林さんは危機感を隠さない。
「いま、この水族館は景気がいいので、若手が『オレが何とかしないといけない』という意識を持ちにくい状況です。でも、そんな環境に甘えていると昔のようなつまらない水族館になってしまうでしょう。お客さんが減ってからでは遅いんです。景気がいいときこそ、どうしたらもっと良い水族館になるのかを考えて工夫していかないと……」
口うるさい「お母さん」役を自任している副館長の戸舘さんは、がんばっている若手をフォローしながらも小林さんと足並みをそろえる。
「うちの子は優しい子が多いんです。お客さんが混雑で困っているときには率先して動いていますし、常連さんとはよく話しています。でも、気持ちが優しすぎるのでせめぎ合い(担当水槽の奪い合いなど)が足りません。刺激を与えるために、海水や淡水の水槽を小林さんと僕で奪いにいっています」
理想的な制度を導入しただけでは効率化やイノベーションは促進されない。緊張感と情熱をあわせ持った人がその制度に出会ったとき、本来の力が少しずつ発揮できるようになるのだ。竹島水族館の人々の不断の努力は続く。
著者プロフィール
大宮冬洋(おおみや とうよう)
1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。個人のいまを美しいモノクロ写真と文章で保存する新サービス「ポートレート大宮」を東京・神楽坂で毎月実施中。著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せのつかみ方〜』(講談社+α新書)などがある。 公式ホームページ https://omiyatoyo.com
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