資本主義経済に対するテロ行為 ゴーン問題の補助線(1):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/2 ページ)
元日産自動車会長、カルロス・ゴーン氏の逮捕を受けて、世の中は大騒ぎである。日仏経済界や政治レベルでの懸案にまで発展しかねない様相を呈している。今回はこの事件について整理してみたい。
ポイントは現金と不動産の価値評価
では2と3。資本と経費の私的流用はどうなのかというと、これは少々情報が足りない。ただし、一部報道を信用するならば、住居に関するものは少し筋が悪い。一般的に解釈するならば物件が豪勢であろうと、いわゆる「社宅」に該当し、福利厚生の一環で処理できる可能性が高く、刑事責任は問いにくい。ただし、業務上その立地に住居が必要であることと、妥当な金額を家賃相当額として会社に支払っていることが前提だ。
ここは原則論のみ述べることにする。争点は会社に損害を与えるかどうかが問題になる。投資判断の恣意性があれば問題だろう。
例えば、購入後、会社の資産として計上されていた不動産を、役員個人に破格に転売しているとか、明らかに資産価値がない、もしくは価値が不安定な物件などをリスクを顧みず購入した結果、資産価値の暴落で会社に損害を与えており、その価値毀損と投資判断過程の主導事実の両方が立証されれば罪に問えるかもしれない。ポイントは現金と不動産の価値評価が釣り合わない投資を職権乱用で行ったかどうかである。
つまり帳簿上で資産が価値変化を起こし、企業が損失を受けてているかどうかが争点ということだ。ご存じの方も多いと思うが、企業が物品を購入するということは「現金と物品を等価交換する」という概念になり、当然使った金と得た不動産は帳簿上等価であることが前提である。もちろん物品は古くなるにつれて価値が減ることが多いから、法定の減価償却によって時間経過とともに価値が下がっていく。ただし、その減価償却が通念上あり得ないほど著しい物品を購入すれば、使った金が無駄になって、投資判断の責任を問われる。そういう構造である。ここでようやく罪状部分の説明が終わった(続く)。
短期集中シリーズ「ゴーン問題の補助線」
第3回:11/28(水)公開
最終回:11/29(木)公開
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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