ガバナンスの失敗 ゴーン問題の補助線(4):池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/2 ページ)
シリーズでお伝えしてきた「ゴーン問題の補助線」。最終回は、日産リバイバルプラン前から現在の状況に至る企業ガバナンスのあり方について考えてみたいと思う。
「ゴーン問題」シリーズの最終回である。
第1回では、カルロス・ゴーン氏の逮捕について法的側面からの検証を行った。第2回では「日産リバイバルプラン」以前の日産自動車の状況と、改革の内容についての解説を行った。第3回では、日産自動車と三菱自動車を日仏政府が奪い合う背景を説明した。
本稿ではリバイバルプラン前から現在の状況に至る企業ガバナンスのあり方について考えてみたいと思う。
われわれには今回の事態から学ぶべき教訓がある。これまで書いてきた通り、リバイバルプラン以前の日産自動車は極めてポピュリズム的、つまり個人の勝手な利益をそれぞれが追求した結果、全体最適が放置される体制に陥り、倒産寸前に至った。そこにカルロス・ゴーン氏が現れて、独裁的手法で問題を解決した。
日本も米国もEUも、今、いろいろことが決められない。賛否両論の綱引きの中で、決定力を欠き、先に進めなくなっている。対して中国は共産党の独裁体制で、全てを効率的に進め、短期間で米国と並ぶ経済力を獲得しようとしている。
合議制と独裁制についてよく考える必要があるのではないか? そこで思い出されるのは共和制ローマの独裁官というシステムだ。
民主的であることは戦後長らく絶対正義とみなされてきたが、現在世界はそれに疑義を持っている。民主主義は根源的にポピュリズムを内包しており、バラ撒き的利益誘導に弱い。そうして個人間の利益が対立してこう着状態が起きると身動きが取れなくなる。
戦争や疫病など国家的危機に接したとき、初動が遅れる、あるいは対応ができないということが起きる。だから共和制ローマでは、緊急事態を収束させるために、すべての権限を統帥して期間を限定して行使できる独裁官という制度を作った。
極めて単純に図式化すると、共和制(リーダーによる合議制)のエラーは動けない方向へ、独裁制のエラーは動きすぎる方向へ傾く。緊急対応が必要な場面では、独裁制の方が効率が良い。しかし独裁制は永続させると、共和制よりひどい問題を引き起こすことになる。暴走すれば、反対勢力に対する弾圧や虐殺が発生する。その規模の恐るべき大きさと陰惨さは毛沢東やポル・ポト、チャウシェスクの引き起こした悪夢を思い出せばイメージできるはずだ。
だから共和制ローマでは独裁官の任期を6カ月に限定した。それによって危機回避が済んだら、直ちに共和制に戻る仕組みを織り込んだのである。2500年前には既にこれだけの知恵があったことになるし、逆説的に言えば2500年も経った今、まだそれから学ばねばならないとも言える。
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