ガンバレ、荒木ちゃん! アシカのラブちゃんと今日も奮闘中:ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(3/3 ページ)
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。
アシカショーで緊張はしない。お客さんの反応を見るのを楽しみにしているから
荒木さんによるアシカショーを見せてもらった。平日の月曜日にもかかわらず、立ち見が出るほどの満員の客を前に、小柄な荒木さんはまったく物怖じしない。大きな声と笑顔で客を引きつけていく。
「うちにはイルカがいないからね。カピバラはいるけれど……。その分だけ頑張って!」
竹島水族館名物の自虐ネタで笑いを取りつつ、バランス、輪投げ、ジャンプなどの芸をきびきびとしたテンポで披露していく。荒木さんの前から竹島水族館にいるラブからすると、「妹みたいな存在の後輩と一緒に遊んでいる」感覚なのかもしれない。
数年前、筆者は館長の小林さんによるアシカショーも見学している。ラブは「憧れの先輩と一緒にいられてうれしすぎる女子」という様子だった。どの芸も張り切っているがやや落ち着きがなく、ショーが終わっても興奮して檻に入ろうとしない。このアシカ、小林さんを好き過ぎて2時間半も「監禁」してしまった前科もあるのだ(参考記事はこちら)。
それと比較すると、荒木さんとラブとの距離感はほど良い。観ていても心地よい安定感がある。荒木さんも仕事の中でアシカショーが一番好きだと明かす。
「緊張はしません。お客さんの反応を見るのがすごく楽しいです。『この人はいい笑顔だな』とか『この人はまた来てくれたな』と思いながら、ラブと頑張っています。何度も見てくれる人を飽きさせないように、そのときの雰囲気で披露する種目も私の言葉も変えています」
荒木さんは直感力と臨機応変の才能に恵まれた人なのだと思う。ただし、それだけでは多くの客を喜ばせるアシカショーを続けることはできない。「魚大好きの自分たちの満足ではなく、お客さんが楽しんで過ごせることを最優先する。そのためには骨惜しみせずに努力する」という竹島水族館の運営方針を荒木さんは常に意識している
就職して2年足らず。若い荒木さんの悩みは絶えない。しかし、同僚や魚たちやラブと一緒に努力して今日の客に喜んでもらう姿勢を忘れなければ、時間の経過とともに悩みは解消されていくはずだ。ガンバレ、荒木ちゃん!
著者プロフィール
大宮冬洋(おおみや とうよう)
1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。個人のいまを美しいモノクロ写真と文章で保存する新サービス「ポートレート大宮」を東京・神楽坂で毎月実施中。著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せのつかみ方〜』(講談社+α新書)などがある。 公式ホームページ https://omiyatoyo.com
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