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温暖化で危険な「雑種フグ」急増、問われる安全管理危険部位がわかりにくい(3/3 ページ)

夜明け前の暗闇に包まれた午前3時10分、天井からの投光に照らされた市場の一角にメリハリのある声が響いた。「えか、えか、えか」。黒い筒状の布袋で手を隠した競り人が進み出ると、周囲の人々がひとりひとり袋の中に手を入れ、値決めのやり取りをする。

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<「完全な安心、安全なしには売れない」>

東京から車で2時間、千葉県いすみ市の大原港。平日にもかかわらず、夜明け前の波止場にはフグ目当ての釣り愛好家が数多く集まる。彼らは「敷嶋丸」で釣り場に向かい、正午ごろにはバケツに一杯になるほどのフグを釣って港に戻ってくる。

山本幸夫船長の母、洋子さんは低いプラスチック製の椅子に座り、手に包丁を持って待機する。釣れたフグをすばやく絞め、毒を持つ皮をはぐ。さらに山本船長がはらわた部分を取り出す。母と息子の連携で手際よくフグがさばかれていく。

「今は、結構遠くまでいかないと獲れないな」と洋子さんの傍らで山本船長は語る。「いろいろな雑種が獲れるようになった。数年前ぐらいからだね」という。

常連の榎本年治さんに言わせれば、フグの毒はちょっとしたスリルだ。「少し口がしびれるのが良いって言う人もいるらしいよ」と、フグ数匹と氷を詰めたビニール袋を手に笑って話した。

猛毒のフグを好む日本人のグルメ志向は、いまに始まったことではない。16世紀、豊臣秀吉はフグ食用禁止令を出したが、民衆は隠れて食べ、多くが命を落とした。フグ食が全国的に解禁されたのは戦後のことだ。熱烈な愛好家の長きにわたる請願が実り、晴れてフグを味わえるようになった。

東京・豊洲市場。多くの高級フグ料理店を顧客に持つ尾坪水産の串田晃一取締役は、スマートウォッチを駆使し、ブルートゥースイヤホンで何十件もの電話を受ける。忙しい12月には、1日で800万円以上ものフグを売りさばくことがあるという。

「フグは一番おいしくて、敷居が高い、魚のランクでもすごく高級で、格がある。それがいいんですよね」と処理されたフグを箱詰めしながら、串田さんは言う。雑種増加の情報が出回るようになってからは、すべてのフグをより念入りにチェックするようになった。

「お客さんにお渡しするときは、完全に安心、安全を確立してからじゃないと売れない」。串田さんは「絶対に問題があってはいけないんですよ」と言葉を強めた。

(編集:北松克朗)

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