なぜ課長はアンケート用紙を渡したのか 「役所の常識」は非常識:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
小学4年生女児が父から日常的に暴力を受けて亡くなった事件で、役所の「対応」が厳しい批判にさらされている。父からの暴力を相談していた女児のアンケートを、加害者である父に手渡していたのだ。なぜ担当者はアンケート用紙を渡したのか。筆者の窪田氏はこのように見ていて……。
役所の悪いところは「仏つくって魂入れず」
こういう事件が起きると「連携が」「もっと連携を」と叫ぶ人たちがいるが、虐待で亡くなる子どもはずいぶん前から右肩上がりで増えており、行政でもずいぶん前から「連携」に取り組んでいる。
野田市もその一つで、2001年5月に、児童相談員、児童相談所、警察、弁護士などが虐待防止のために連絡を密にとる組織づくりを目指して、「児童虐待防止対策連絡協議会」が発足している。
こういう連絡組織は当時まだ少なく、千葉県では、市川市、袖ヶ浦市に続いて3カ所目だった。
だが、「仏つくって魂入れず」ではないが、こういう立派な組織をつくっても、ほとんどまともに機能しないのが日本の役所の悪いところだ。
連絡組織ができて4年ほど経過した05年9月1日、野田市に「顔が腫れている姉弟がいる」という通報があった。5歳女児と3歳男児が、母に同居する男性から「しつけ」として殴られたり、ライターで火傷を負わされていた。
「いざ、児童虐待防止対策連絡協議会発動!」といきたいところだが、協議会の出番はまったくなかった。というよりも、この虐待児童の情報は市担当者のところで1カ月間ずっと止まっていたのである。
結局、住民の通報から1カ月以上経過した10月15日、裸足で逃げ出して歩いていた女児が保護されたことで事件は表沙汰になった。鎖骨の骨が折れて、足は火傷を負った重症だった。
もしあと少し遅れていたら、今回の小四女児のケースと同様、「最悪」の結末を迎えていたかもしれないのだ。
そう聞くと、市役所担当者の怠慢だと思うかもしれないが、遊んでいたわけではない。通報を受けてから市役所の担当者が計8回、姉弟が暮らす自宅を訪ねて、そのたびに男に「子どもはいない」などと門前払いを食らっていたのだ。
親がかたくなに面会を拒絶する場合、市は児童相談所と連携をしなくてはいけない。児相は、虐待の疑いが強い場合は、立ち入り検査ができる権限があるからだ。しかし、役所はそうしなかった。その理由を担当者はこう述べている。
「立ち入り調査を要請しておけば良かったが、判断が難しかった」(読売新聞 2005年10月21日)
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