「バイトテロ」は訴えても抑止できない、3つの理由:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
アルバイトが不適切な動画をSNSにアップしたことを受け、くらコーポレーションが法的措置をとると宣言した。ネット上では「よくやった」「当然だ」といった声が多いなかで、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。どういうことかというと……。
「憎悪」が生まれてしまう恐れ
そこに加えて、(2)のように雇用者側がバイトに対してあまりにコワモテの態度でのぞむと、「安い時給でコキ使いやがって」という反発・反抗心がバイトの中に生まれてしまう恐れもある。
分かりやすいのが、2017年2月にSNSで話題になった「セブン-イレブンの罰金制問題」だ。
きっかけは、あるユーザーが、セブン-イレブンでバイトする高校生の娘の給与明細書の写真を投稿し、病欠した時にペナルティ代として「935円×10時間=9350円」が引かれていることを明かした。
これを受けて、別の店舗の従業員も、「いかなる理由があっても、1分遅れるごとに、100円いただきます。※1時間の遅刻で6000円です」という店長が書いたと思われるメモの画像を投稿したのである。
アルバイト店員を使う立場の人からすれば、「これくらい厳しくやらないとダメなんだよ」と共感するかもしれないが、これらの投稿をきっかけに、「バイトなのにサービス残業をさせられる」「クリスマスケーキや恵方巻きの購入を強制させられている」など、従業員の職場に対する「ディスり」がせきをきったように活性化してしまったのだ。
つまり、社会人としての常識だということで、アルバイト店員に組織への忠誠を誓わせるのもあまりに度を超えてしまうと、今回の「不適切動画」と同様に、企業の信用失墜につながってしまうのだ。
さらに、筆者が「問題バイト」に法的措置をとることをおすすめしない最大の理由が(3)だ。
既に多くの専門家の方たちが指摘しているように、今回の投稿者の多くは、世界中にバカ動画を配信するつもりではなく、Instagramのストーリー機能で仲間内に見せるための動画が「流出」したというパターンである。
悪意がないので無罪だと言っているわけではない。多くの人には迷惑をかけた人間にはそれなりにペナルティーを課すのは当然だ。しかし、彼らからすれば、「テロ」など呼ばれるような大それたことをしたつもりがないのに、重すぎる罰を与えると「逆恨み」ではないが、企業への強い憎しみが生まれてしまう。このような「憎悪を抱く元従業員」は企業に対して、不適切動画どころではない、致命的なダメージをもたらす恐れがあるのだ。
関連記事
- 「佃製作所はやっぱりブラック企業」と感じてしまう、3つの理由
ドラマ「下町ロケット」の特別編が放映され、14.0%という高視聴率を叩き出した。多くの人がこのドラマを見て胸が熱くなったかもしれないが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。ドラマの内容を考えると、「日本の未来に不安を感じる」という。どういう意味かというと……。 - なぜ日本のおじさんは怒ると「責任者を呼べ!」と騒ぐのか
街中を歩いていて、おじさんが「責任者を出せ!」と騒いでいるのを聞いたことはないだろうか。例えば、駅員に大声を出したり、コンビニの店員を叱ったり、とにかく日本のおじさんはよく怒っている。なぜおじさんは「責任者を呼べ!」と叫ぶのか、その背景を調べてみると……。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。 - 「現金お断りの店」は、その後どうなったのか? ロイヤルHDの実験
1年ほど前、東京の日本橋に「現金お断り」のレストランが登場した。ロイヤルホストを運営するロイヤルHDが運営しているわけだが、キャッシュレスにしてどんなことが分かってきたのか。メリットとデメリットを聞いたところ……。 - 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。 - 日本のおじさんたちが、「アデランス」をかぶらなくなったワケ
アデランスがMBOを実施すると発表した。投資ファンドからの支援を受けながら経営再建を目指していくそうだが、業績低迷の背景に一体何があったのか。日本のおじさんたちが「かつら」をかぶらなくなった……!? - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。 - 「外国人は来るな!」と叫ぶ人たちが、移民政策に沈黙しているワケ
いよいよ日本が、世界有数の「移民大国」へと生まれ変わる。普段、「外国人は来るな」と叫ぶ人たちは、なぜこの法案に沈黙しているのか。その背景には、「恐怖」が関係していて……。 - 日本人が「通勤地獄」から抜け出せない、歴史的な背景
暑くなってきたので「満員電車」が辛くなってきた。「働き方改革を実現しよー」「時差出勤をしよー」と叫ばれているのに、なぜ“通勤地獄”は解消されないのか。その歴史をひも解いてみると、意外な事実が……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.