「バイトテロ」は訴えても抑止できない、3つの理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
アルバイトが不適切な動画をSNSにアップしたことを受け、くらコーポレーションが法的措置をとると宣言した。ネット上では「よくやった」「当然だ」といった声が多いなかで、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。どういうことかというと……。
「バイトテロ」が一部の業界で続発している原因
そう考えていくと、低賃金・低待遇ゆえに、「いつ辞めてもいい」という思いが後先を考えない愚かな行動の背中を押している可能性はないか。
基本的にコンビニや外食は、若者を「使い捨ての労働力」として使ってきた。ある日、突然辞めてしまう無責任な人間を想定して、応募がきたら即採用、辞めたら補給というサイクルで回してきた。こういうところで働く若者は自分のことをどう思うか。
「代わりはいくらでもいる使い捨ての労働力」だと思うだろう。
「使い捨て」なので、仕事に対する責任感も誇りも生まれない。だから、教室の悪ふざけのノリで、バカ動画を撮ってしまうのだ。
では、どうすれば彼らに「使い捨て」ではないと分からせるのかというと、彼らがバイトに求めているものしかない。そう、シフトを優遇したり時給を上げたりするのだ。
「いや、働くことは金だけじゃない。大切なのはやりがいやコミュニケーションだ」とか言う人がいるが、賃金や待遇を改善しないで、労働者に精神論を押し付けて不満を封じ込める職場を、世間では「ブラック企業」と呼ぶ。
ちなみに、今回の問題があったと言われる「くら寿司」の店舗のバイト募集を、Webサイトで確認したら「時給936円以上」だった。大阪府の最低賃金は936円なので、ここから技能や経験でグングン時給アップするのだろうが、学生の感覚からすれば、決して「高額バイト」ではなかったはずだ。
これまで日本企業の多くは「賃金は低く、労働者の質は高く」を合言葉に右肩上がりの成長を遂げてきた。そのビジネスモデルが限界にきて、あちこちで崩壊しているのだ。
この日本を支える「低賃金労働者」がたちゆかなくなっているのは、明らかに深刻な人権問題を引き起こす外国人労働者という移民政策へとゴリ押しでかじを切ったことからも明白だ。
「バイトテロ」は許されることではない。徹底的に断罪すべきだ。そう訴える企業側の気持ちもよく分かるが、法的措置の前に、なぜこのような「テロ」が一部の業界で続発しているのかという原因も、考えるべきではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
関連記事
- 「佃製作所はやっぱりブラック企業」と感じてしまう、3つの理由
ドラマ「下町ロケット」の特別編が放映され、14.0%という高視聴率を叩き出した。多くの人がこのドラマを見て胸が熱くなったかもしれないが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。ドラマの内容を考えると、「日本の未来に不安を感じる」という。どういう意味かというと……。 - なぜ日本のおじさんは怒ると「責任者を呼べ!」と騒ぐのか
街中を歩いていて、おじさんが「責任者を出せ!」と騒いでいるのを聞いたことはないだろうか。例えば、駅員に大声を出したり、コンビニの店員を叱ったり、とにかく日本のおじさんはよく怒っている。なぜおじさんは「責任者を呼べ!」と叫ぶのか、その背景を調べてみると……。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。 - 「現金お断りの店」は、その後どうなったのか? ロイヤルHDの実験
1年ほど前、東京の日本橋に「現金お断り」のレストランが登場した。ロイヤルホストを運営するロイヤルHDが運営しているわけだが、キャッシュレスにしてどんなことが分かってきたのか。メリットとデメリットを聞いたところ……。 - 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。 - 日本のおじさんたちが、「アデランス」をかぶらなくなったワケ
アデランスがMBOを実施すると発表した。投資ファンドからの支援を受けながら経営再建を目指していくそうだが、業績低迷の背景に一体何があったのか。日本のおじさんたちが「かつら」をかぶらなくなった……!? - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。 - 「外国人は来るな!」と叫ぶ人たちが、移民政策に沈黙しているワケ
いよいよ日本が、世界有数の「移民大国」へと生まれ変わる。普段、「外国人は来るな」と叫ぶ人たちは、なぜこの法案に沈黙しているのか。その背景には、「恐怖」が関係していて……。 - 日本人が「通勤地獄」から抜け出せない、歴史的な背景
暑くなってきたので「満員電車」が辛くなってきた。「働き方改革を実現しよー」「時差出勤をしよー」と叫ばれているのに、なぜ“通勤地獄”は解消されないのか。その歴史をひも解いてみると、意外な事実が……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.