スバルよ変われ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
スバルが相次いで不祥事を引き起こす原因は一体何なのか? スバルのためにも、スバルの何が問題なのかきちんと書くべきだろうと思う。
理想の袋小路
「理想のエンジニアリング」と言えば非常に聞こえが良いが、実はそこには決して到達してはならない。理想が達成されるということはそこで進化が終わるということだ。
同じ理想ということに対してトヨタとマツダの考え方はとても面白い。トヨタは言う。「われわれのやることは必ず間違っている。だからカイゼンができる。カイゼンする必要がない状態は永遠にない。問題がないと言うヤツは問題が発見できない無能なヤツだ」。
無能だと言われたくないトヨタのエンジニアは、必死に自分の至らないところを探し、外にアピールする。そして問題を見つけたエンジニアは拍手喝采を受けるのだ。だからどうしたってオープンになる。オープンになる仕掛けがあり、間違いや問題を顕在化させることこそが手柄であり、その顕在化はチームのこれからの仕事の保証でもある。解決すべき問題があるからこれからも仕事があるのだ。
無限かつ最速でカイゼンし続けていくことこそがイノベーションを生むとトヨタは言う。問題はなくてはならないのだ。
マツダはどう言っているか。「できるできないは問わない。本当の理想を定義しよう。それは今実現できないもので良い。いやむしろその方が良い。われわれにはお金も人も足りない。実現可能な範囲で目標を設定したらその目標はしょぼい。だから高邁な理想を遙か遠くに描いて、そこへ1歩近づくことを目標にしよう」。
トヨタは間違い探し競争でオープン化し、マツダは全員が共有するとんでもなく高い理想を見てそこへの距離を少しでも詰めようとする。常に「道半ば」だ。他部署が自分のテリトリーに踏み込んで来て「全体最適化のためにここをこう変えろ!」と言う。内心「うるさいな」と思いつつも「お前それで本当に理想に近づけるのか?」と言われれば、理想の方が上位概念である以上、飲まざるを得ない。どちらの会社もオープン化のためのシステムがあるのだ。
さて、スバルは日本有数の積雪地帯を苦にもしないでしっかり走った。200キロの行程中、不安に思ったことはない。そして筆者があまり高く評価してこなかったマイルドハイブリッドのe-BOXERが雪の上ではとても正確なトルクデリバリーをしてみせて印象を上げたことを述べておく。
スバルは今、プリンシパルを共有しないままに、個別の要素技術の高さでこれだけのクルマができている。ならばプリンシパルを定め、オープン化したらもっと良いクルマが作れるはずだ。カイゼン余地はとても大きい。冒頭の完成検査問題を振り返ると、それはやはりオープンでなかったから、閉じているから引き起こされたことだと思う。ジャンルごとにそびえ立つ象牙の塔でひたすら理想を追い続ける。そこに落とし穴があったのではないか?
だから筆者は今こそスバルのチャンスだと思う。多くの人に口を差し挟まれ、否応なくオープン化してしまえば良い。バッシングを、そしてバッシングで折れた心を変革の推進力にすべきだ。文化や習慣を変えるのはものすごく大変なので、そうしない限りスバルは変われない。筆者の目からはそう見える。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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