英国工場閉鎖を決めたホンダの狙い:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
2月19日、ホンダは記者会見を開き、事業運営体制に関する2つの発表、「二輪事業の組み替え」と「英国とトルコの四輪生産工場を閉鎖」を行った。この狙いとは?
改革は成功か失敗か?
結論をまとめる前に、もう一点念を押しておかないといけないことがある。今回の八郷社長の会見に度々出てきた「電動化」について「EV化」と勘違いして書かれた記事を散見するが、これはもう用語の定義間違いで、お話にならない。
今後何十年かをかけて、長期的にEV化は進むだろうが、当面はモーターを付加したハイブリッド系が圧倒的多数派だ。電動化とはモーターを装備していることを意味しているのであって「エンジンがないこと」を意味していない。これを安易に中国と結び付けて「ホンダはEVに舵を切った」と理解するのは限りなく誤報である。
米国が「一番売れる乗用車はピックアップトラック」というガラパゴスマーケットであるのと同じく、中国では極端な政治主導によってEVが台数を伸ばすだろうが、それは政府が主導して160基も原発建設計画がある中国だけのガラパゴスストーリーで、極端に偏った政策の結果だ。
自由主義諸国では、自治体や住民と話し合わずに原発をどんどん作ったり、EVに多額の補助金を付ける一方で、EV以外のナンバー交付に100万円もの罰則課税を設ける法律は作れない。そこまでやって新車登録の5%程度というのが中国の実態だ。要するにクルマの購入者に自由意志による選択権がない中でのEV普及なのだ。ファクトベースであれば、中国でのEVの躍進は過大評価でしかない。
さて今回のホンダの事業改革をどう評価するかは難しい。筆者は新興国メーカーと戦うために、意思決定方法を変更することは方針としては正しいと思う。ただし、それが実現できるかどうかはまた別だ。そこはお手並み拝見ということだろう。
英国工場の撤退も正しい決断だと思う。損切りは早いほど良い。すでに遅かったくらいだが、それでもいつまでも引っ張るよりは良い。
中国生産への切り替えは、欧中の関係性がどう変わっていくかに依存するし、さらに言えば、その際、中国政府による外資へのガバナンスがどう推移するかによる。不確実性の多い選択肢である。これについては判断を保留したい。正直サイコロの目次第だと思う。
いずれにしてもホンダが現状維持に危機感を感じ始め、自己改革に踏み出したことは歓迎したい。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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