復活の兆しがある「社内運動会」は、本当に組織を活性化するのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
社内運動会を開催しているところが増えているという。「社内運動会=昭和」のイメージがあるが、どういった目的で開催しているのか。「組織を活性化するために」といった声が多いが、本当にそんなこと……。
クレージーな構図は夏の甲子園と同じ
こうした傾向は今に始まったことではない。戦後、「もう戦争も終わったんだし、軍事訓練みたいなのを子どもにやらせるような運動会はやめにしない?」という声が上がったが、すぐに大人たちが「いや、運動会は大切だ!」「伝統だ!」とムキになって、戦前以上にヒートアップしていった。その乱痴気騒ぎを当時の新聞はこのように報じている。
「よい運動会のために PTAのお祭りではない」(朝日新聞 1956年10月5日)
「派手すぎる運動会 教育庁が自粛を要請 “子供よりおとな”の傾向が強い」(読売新聞 1960年10月15日)
「父兄が出る種目が6種目もあり」というのは序の口で、PTAが仮装行列をしたり、寄付を募って徒競走で1位になった子どもに豪華な景品を渡すなんて、今からすれば信じられないような馬鹿騒ぎだった。このような「暴走」こそが、運動会というものが「大人のもの」であることの証ではないのか。
好き嫌いは別として、組織活性化策として社内運動会に効果があることは間違いない。そのような意味では、強い組織をつくりたい、会社への忠誠心を育みたいという企業は、どんどん導入すべきだと個人的には思う。受け入れてくれる国があるのなら、日本発の効果的なチームビルディング術として世界に広めればいい。
しかし、そろそろ子どもたちに押し付けるのは勘弁してやってもいいのではないか。この数日だけでも、たくさんの子どもが熱中症で担ぎ込まれた。フラフラで倒れる子どもを見て、「これこれ! やっぱ運動会はこれくらいハードじゃなくっちゃ」「こういう試練を乗り越えて子どもは成長していくんだ」と大人が喜ぶというクレージーな構図は、夏の甲子園と全く同じだ。
「世界に誇るUNDOKAI」が、「世界がドン引きする子どもへのハラスメント」なんてバカにされないうちに、教育現場における運動会のあり方を考え直すべきではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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