リーダーに大事なのは「IQより愛嬌」? 変革の大敵、“変わりたくない人々”を巻き込む方法:CIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(2/4 ページ)
企業の変化を妨げる「変わりたくない人々」。CIOはどうやって彼らを納得させればいいのか。
「全体最適」という言葉を使って逃げてはいけない
中野 そういう「コミュニケーションのデジタル化」みたいなテーマは、本来は極めてシンプルな話で、言ってみれば昔の電話やメールがチャットに変わっただけです。ただ一般的な企業では、そうした方向性にどうしても付いて来れない人たちが大量に出てきますよね。
友岡 そういう人、多いですよね。でも僕は、そういう人たちにはあまり影響されませんけどね。そういうもんだと思ってやってますから。情シスの人数も少ないですから、サポートもきめ細かににできないわけですよ。新しいツールを喜んでいる人がいる一方で、「前の方が良かった」とか「前に戻してくれ」と言う人は出てきます。
中野 あと「マニュアル作ってくれ」とか。思いっきりコモディティ化したシステムなのだから、「頼むからググってください」と言いたいところなのですが(笑)。
友岡 現場からの不平不満は少なからずあって、うちのスタッフが「どうしましょう?」と相談に来るわけです。でも僕の答えはシンプルで、「この電話番号に掛けて、友岡と直接話をしてください」と返すように言います。残念ながら実際には、1本も電話掛かって来ないんですが(笑)。
そういったユーザーへの対応は、本来はスタッフがやるべき仕事ではありません。そういう面倒ごとから、スタッフを救ってあげないといけない。でも、そうやって文句を言ってくる人のことを、非難しているわけではないんです。僕は「ちゃんとお話がしたい」と、極めてオープンな態度を取っているだけなんですけどね。
中野 強い……。私の場合は本当に電話掛かってきちゃう可能性があるので、なかなかそこまで強く出ることができないのですが。情シスがただ単にいい顔をしているだけだと、本当にしょうもない話が大量に押し寄せてきて、身動きが取れなくなってしまいますよね。
友岡 まあ、実際はそうなんですよね。それでかつて、足をすくわれた経験もありますし。でも、かといって、僕はそこを「全体最適」という言葉だけで押し切りたくはないんです。「そもそも“全体”とは一体誰なんだ?」という話なんですね。
中野 全体最適を語っている制約理論は、本来は「全体最適というのは全体が部分によって制約される」わけで、本当は「全体のパフォーマンスを制約する部分を特定し、それを解消する」という話なんですよね。
全体最適は、比較的メーカーで語られることが多いんですけど、元ネタの「ザ・ゴール」ですら全部読んでいない人が多いですね。取りあえず「全体最適でドーンとやって、皆、何となく幸せ」みたいな、極めて曖昧なニュアンスで使われることが結構、目に付きます。
これと似たようなことがWebでもあって、Google系の本とか「ビジョナリー・カンパニー」とか。最近では「ティール」あたりでしょうか。このあたりもそもそもちゃんと読んでなかったり、読んでいても知識だけが遊離してしまって自分の経験との結び付きが弱かったりする事があります。
なぜそうなるのかというと、それぞれの事例が成立した前提に踏み込まないで結論としての理論をそのまま飲み込んでる感じがするのです。あの手の本は答えじゃなくて、問いにするべきだと思う。正しい事が書いてるのではなく、それぞれが何らかの課題を解決するためにどういう考えをしてどういう施策を打ったか。そこの思考のプロセスをたどることに意味があると思うのです。
友岡 全体最適という言葉が持ち出される場面では、得てして「本社と事業部」みたいな対立軸が前提として共有されているんです。しかし、よくよく考えてみると、本社というのはバーチャルな存在で、実態は何もありません。絶対的な実態があるのは、事業の方なんですね。なので優先すべきは事業の最適化であって、カンパニー制などはまさにそのためにあるわけです。漠然と使われる「全体最適化」という言葉は、とても危険だという気がしているんです。
中野 その通りだと思います。しかも、それぞれの立場によって想定している「全体」が異なるので、結局は自分たちの立場を主張するために「全体」を持ち出すことになりがちですね。これは自戒も込めてなのですが……。
友岡 そういう意味では、情シスが全体最適を持ち出すケースというのは、ユーザー部門からの反発を突っぱねて、自分たちの立場を守るための大義名分として使われることが多いような気がします。「これは社長のトップダウンでやっているし、全体最適を目指しているので、あなたたちにごちゃごちゃ言われても困ります」と、コミュニケーションをシャットダウンする手段として使う。
でも、僕は、そういうの好きじゃないんです。むしろ「現場最適」という言葉の方が好きで、それぞれの現場から見たときに「これは自分たちのために作ってくれたんだ!」と感じてもらえるようなものを届けたいと思っています。ただし、後ろ側の仕掛けまで現場最適でばらばらにするわけにはいかないので、そこは、できるだけプラットフォーム化、共通化するわけです。
こうした理由から、「全体最適」という便利な言葉を使って現場から逃げないことが重要です。逃げてしまうと、その時点でコミュニケーションが途切れてしまって、情シスは現場に入れなくなってしまう。このあたりはやはり、CIOとしての胆力が試される部分ですね。
中野 現場におもねるわけでもなく、かといって全体最適に逃げるわけでもなく、ステークホルダーがそれぞれ抱えている課題を適切に整理しながら、妥協ではなく「コンフリクトを解消していく」ということですね。これは制約理論から学んだ基本的なコンセプトではあると思います。実際やろうとすると、ものすごくしんどいですけどね。
友岡 そうですね。一言で言えば、「高い次元で最適化していく」ということです。一方でITというのはとても大きな投資なので、私たちは「投資の効率」についても同時に考えなくてはいけません。そこをおろそかにすると、えらいことになってしまいます。
関連記事
- 日本にCIOという職業を確立させる、それが私のミッション――フジテックCIO友岡賢二氏
「セカエレ」(世界のエレベータ・エスカレータ)を標榜し、日本から世界にビジネスを展開するフジテック 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二氏が語る、これからの日本企業に求められるCIOの役割や情シスの価値とは? - 1年半でシステム刷新のクックパッド、怒濤の「5並列プロジェクト」に見る“世界で勝つためのシステム設計”
海外展開を視野に入れ、“世界で勝つためのシステム構築“に取り組むことになったクックパッド。海外企業を参考にプロジェクトを進める中、日本企業のシステムとそれを支える組織との間に大きな差があることを認識した同社は、どう動いたのか。また、分散と分断が進み、Excel職人が手作業で情報を連携している状態から、どのようにして統合された一貫性のあるシステムに移行したのか――。怒濤のプロジェクトの全容が対談で明らかに。 - 日本のCIOは「CxO四天王の中で最弱」? この状況はどうしたら変わるのか
クックパッドの情シス部長とITコンサルの、「これからの情シスはどうあるべきか問題」を語る対談の後編。テーマはこれからのIT部門の役割や、攻めの情シスについての考え方、日本の「CIO不在問題」はどうすれば変わるのか――。2人の意見はいかに。 - 「ビジネスとITをつなぐ日本一の人間になる」 RIZAP CIOの岡田氏は「無名時代のファーストリテイリング」で何を学んだのか
ダイエットのビフォーアフターを見せるテレビCMで一躍有名になったRIZAP。そんなRIZAPの“ビジネスとITをつなげる役割”を担うキーパーソンが、同社取締役でCIOを務める岡田章二氏だ。同氏が考える「ビジネスとITの関係」「あるべきCIOの姿」とは一体どのようなものなのだろうか? - プロ経営者 松本晃会長の下、現場では何が起きていたのか――カルビー大変革の舞台裏
日本を代表するプロ経営者として知られるカルビーの元会長、松本晃氏。同氏がカルビーの経営に大なたを振るったとき、人事やIT部門はどんな施策でそれに対応しようとしていたのか。現場の取り組みに迫った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.