スープラ ミドルスポーツの矛盾構造:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)
「ピュアスポーツを作りたかった」という想いのもと、幾多の犠牲を払ってホイールベース/トレッド比を縮めたスープラ。しかし自動車を巡る規制の強化は続いており、どんなに最新技術を凝らしても、過去のピュアスポーツカーと比べれば、大きいし重いし、ボンネットが高い。それでも、10年、20年の時を経て振り返ったら「あれが最後のスポーツカーだった」といわれるかもしれない。
さて、中負荷域のハンドリングだ。微小舵角(だかく)での反応やそこからのつながりはきれいに作り込まれている。舵角を入れてからのタメや、舵角変化に対する適度なタイトさはTNGAモデルのトヨタ車と比べてもよくできている。ちなみにスープラはBMWとの共同開発シャシーでTNGAではないが、方向性はちゃんとそろっている。今回の試乗は公道なので高負荷域は試していない。
全体的にはタイヤの能力が高く、普通の速度域では「お釈迦様の手の上感」が少なからずある。それでもつながり感の丁寧な仕上げを感じ取れる人にとっては、必ずしも飛ばさなくても高質感は感じ取れるだろう。
半年前、大雨の袖ヶ浦フォレストスピードウェイで試乗したプロトタイプ(18年12月の記事参照)は、とにかくリヤの落ち着きがなく、タイヤの限界(しかも雨のサーキットなので簡単に超える)を出たら、コントロールが極めて難しいというクルマだった。同じ条件で試してみないと太鼓判は押せないが、今回の公道試乗で乗る限りはほとんど別物に仕上がっていた。チーフエンジニアの弁によれば「あの時はクルマを台数用意するだけで精一杯で、仕上がりのばらつきがものすごく多かったのです」とのこと。
さて、スープラをどう評価するかはかなり難しい。3つ評価軸があると思う。過去の名車や、少量生産のスポーツカーと並べたら、快適性方面を除外するとだいぶ分が悪い。スポーツカーとしてみれば重量差がありすぎる。そればかりはルールが違うのだから仕方ない。
歴代スープラと比較したら、運動体として圧倒的にレベルアップしている。
そして、10年、20年の時を経て振り返ったら「あれが最後のスポーツカーだった」と思う可能性はある。6気筒エンジンのスポーツカーは時代の波間に消えていく運命が今や濃厚なのだ。
豊田章男社長は、「100年前の米国には1500万頭の馬がいて、それは今や1500万台のクルマに置き換わっている。それでも競走馬や趣味として乗る馬は残っている。だからコモディティ化の時代に残るクルマは“Fun to Drive”だ」と言う。
その通りなのだが、馬はもう事実上クローズドコースに閉じ込められてしまった。そこをどう考えるのか、スープラという一台を通して、スポーツカーを公道で走らせることがこれだけ深い悩みを生む時代になったのだと今改めて思う。
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