奄美大島クルーズ誘致計画はなぜ挫折したのか:クルーズ市場最前線(4/4 ページ)
国土交通省が「島国日本」の魅力を訴求できる離島を寄港地として支援すべく、開発のモデルケースとして調査を実施した奄美大島。一時は大型客船の寄港誘致計画が持ち上がったものの、2019年8月に計画が撤回された。奄美大島のクルーズ船寄港誘致はなぜ挫折したのか。客船寄港誘致の問題点を冷静に考える。
地元の賛同があってこそクルーズ船は寄港できる
今回の寄港誘致計画に反対している奄自資料やWWFジャパンも、クルーズによる観光振興そのものを否定しているわけではない。奄自資料では、大型客船ではなく小型客船によるエコクルーズを意識した寄港を提案し、WWFジャパンの要望書では自然環境に与える悪影響を防止するために科学的評価による受け入れ枠の設定や、情報公開による地域住民への周知と合意形成を訴えている。一方で、瀬戸内町町長は、計画断念の記者会見で「クルーズ寄港誘致は継続していく」と発言している。
奄美の自然を愛する会が第三回検討協議会で示した資料では、クルーズ船をランク分けし、大型船、小型船(探検クルーズ船)それぞれでメリットとデメリットを示した。彼らは、探検クルーズ船、もしくは、小型船が中心で富裕層が乗るラグジュアリークラス以上のクルーズの受け入れを主張する。なお、日本客船で「飛鳥II」はラグジュアリー(キューナードと同等)、「にっぽん丸」と「ぱしふぃっくびいなす」はプレミアム(セレブリティ、ゲンティンクルーズライン)と認識している
奄美大島の入り組んだ海岸線が生み出す豊かな自然は、以前から日本の客船を利用してきた船客や、豊富なクルーズ体験を有するヨット乗りたちから高い評価を得ている。そして、最近のクルーズに対する嗜好は、従来のパッケージツアー的な集団による観光から、探検クルーズや異文化体験にシフトしている。これらのことから、奄美大島海域に対する寄港意欲は今後も高まる可能性は高い。
その奄美大島の自然と地域住民の歓迎があってこそ、よりよいクルーズが実現できる。そして、今回の誘致計画で表面化した問題や懸念について、解決できる方策は技術的に確立している(大型客船であっても上陸する人数は制御できるし、ラグジュアリー客船に乗る富裕層がより良い船客であるとは限らない)。RCLであってもそれ以外のクルーズ企業であっても、奄美大島への寄港を考えるなら、まずはWWFジャパンが掲げた要望項目に対して十分に配慮すべきだろう。
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