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静岡県知事の「リニア妨害」 県内からも不満噴出の衝撃【前編】現地取材で覚えた「違和感」(2/5 ページ)

静岡県が大井川の減水問題などを理由に、リニア中央新幹線の建設工事に「待った」をかけ続けている。なぜ静岡県知事はリニア建設を「妨害」するのか? 現地取材で浮かび上がった実態を前後編でお届けする。

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大井川流域の住民との“温度差”

 大井川は、日本第3位の高峰・間ノ岳(あいのだけ、標高3189メートル)に源を発し、南に168キロ蛇行して駿河湾に注ぐ。その間、上流から静岡市、川根本町、島田市、藤枝市、焼津市、吉田町の4市2町を流れる。

 リニア中央新幹線のトンネル工事が行われるのは、源流部の静岡市葵区である。大井川はダムの多い河川としても知られ、1925(大正14)年、最上流に建設された田代ダムをはじめとする15基のダムと30以上の堰堤(えんてい)が連なっている。いまは蒸気機関車や「きかんしゃトーマス号」を走らせて人気になっている大井川鐵道は、これらのダム建設に必要な物資を輸送するために敷設された。

 ダムのうち13基は水力発電用で、12基の事業者は中部電力、前述の田代ダムは東京電力だ。中部電力のダムは発電した水を大井川に放流しているが、東京電力だけは、南アルプスを貫く導水路トンネルによって山梨県内で発電し、富士川水系(山梨県・静岡県)に放流している。

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ダムを訪れた人がもらえるダムカード

 その富士川上流では、リニアのトンネル工事(山梨工区)が2015年から始まっている。昨今、駿河湾に生息するサクラエビの不漁が静岡県内で大きなニュースとなっているが、川勝知事は、これが富士川上流のリニア工事による濁り水と関係があることを匂わす発言をした。19年3月の定例記者会見で次のように述べている。

 「(富士川上流は山梨県のために)調査ができなかった。濁りは工事がないと出ない。徹底的に調べたい」

 川勝知事はエビデンスのないままリニア工事との因果関係を示唆する発言をし、地元紙・静岡新聞は「知事『リニア工事影響も視野』富士川水系濁り、県が本格調査へ」と報道した。

 これに対して、東海大学海洋学部(静岡市)の鈴木伸洋元教授(現・非常勤講師)は6月、産経新聞社の取材で別の原因の可能性を指摘した。サクラエビの不漁は、環境の変動だけでは説明できず、産卵前のサクラエビの取りすぎが主因だというのである。サクラエビの不漁は「川の濁り」が原因だというのであれば、工事よりも豪雨による影響の方が桁外れに大きいのは、誰が考えても分かる。 

 蓬莱橋で話しかけてきた男性が、大井川の環境問題についてこんな話をした。

 「リニアで大井川の環境問題を言うのなら、島田市内の製紙工場の排水によるヘドロから解決すべきです。今日(台風の翌日)は増水していて分かりませんが、大井川の支流はヘドロで困っています。製紙工場は工業用水を買ってくれて、税収や雇用にも貢献しているので、誰も表立って文句を言いません」

 大井川流域は日本有数のお茶どころだ。山の斜面には、お茶畑が広がっている。

 島田市の川根温泉でも、女性従業員が「昨日は、朝からサイレンが何度も鳴って、上流のダムから放流が始まりました。大井川が氾濫しないかと心配でした」と話した。濁流が引いてきた大井川では、鉄橋を走るきかんしゃトーマス号、同ジェームス号を見たさに家族連れが集まっていた。ふと見ると、河川敷には、「増水すると危険!」の看板があった。

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大井川を渡る大井川鐵道のきかんしゃジェームスと「増水すると危険!」の看板

 上流の川根本町の長島ダム(国土交通省の防災ダム)では、この日も、放流が行われていた。ダムを見上げる飛沫橋(しぶきばし)を渡ると、水飛沫で服もびっしょりになった。18年、270人以上の死者・行方不明者を出した「平成30年7月豪雨」では、愛媛県内のダムの放流量を急増させた結果、西予市で5人の住民が死亡している。大井川流域においても無関係とは言えない。

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放流する長島ダム。治水用のダムだが、発電や上水道・灌漑用の取水も行っている

 大井川流域で出会った人々のうち多くは、リニア工事によって「減水」と「環境悪化」が起きることに批判的だった。上流部の畑薙第一ダムに近い南アルプス赤石温泉「白樺荘」の湯船で出会った静岡市の男性登山客も「リニア工事が行われても、環境保全だけはしっかりしてほしい」と、自然愛好家らしい話をした。

 ところが、井川ダムがある静岡市葵区井川地区の食堂では、地元の従業員女性の対応に、他の地域とは“温度差”を感じた。リニアについて水を向けると、「もう、決まったことだから仕方ないでしょ」と、明るく話したのだ。食堂だけに、リニアに反対する人も賛成する人も訪れる。客の感情を刺激しないように、従業員は忖度しているのかもしれない。

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静岡市葵区井川地区に立てられたリニア工事関係車両への表示

 この地区には、JR東海と静岡市との協定によって、JR東海の費用で静岡市街地方向に抜けるトンネルが140億円をかけて設置されることが、昨年6月に決まった。JR東海は当初、井川地区と川根本町を大井川沿いに結ぶ静岡市道閑蔵線の整備を提案していたものの、井川地区住民の要望は、井川地区と静岡市街地とを直接結ぶ県道三ツ峰落合線を整備して欲しいということであった。これまで、静岡市中心部まで、峠越えで2時間ほどかかったのが、トンネルを開通させれば20分以上短縮できる。雪や大雨による通行止めも少なくなる。

 静岡市は8月15日、井川地区に「台風警戒のため、避難準備・高齢者等避難開始」を発令した。水害は、それほど切実な問題なのだ。それがリニア工事によって、地区内にはリニア工事の事務所も設置され、将来は静岡市街地へのアクセスも改善されるとあって、将来、オクシズ(奥静岡)を訪れる観光客の増加も期待できる。

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静岡市葵区井川地区の名物「手打ちそば」

 それに対して、下流の川根本町の住民が川勝知事に対して“恨み節”をぶちまけた。

 「リニア工事の道路整備は、もともと川根本町から井川地区に抜ける道を予定していました。知事がゴネたせいで、観光客はこの町を通らずに、静岡市街からの道を利用するようになってしまいます」

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畑薙第一ダムの先は、一般車両は進入禁止

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