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ヴィッツ改めヤリスが登場すると、世界が変わるかもしれない話池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

TNGAの最後のひと駒であるGA-Bプラットフォームが、今回、ヴィッツの後継車となるヤリスに導入される。筆者は15年のTNGA発表まで、トヨタのクルマをほとんど信用していなかった。TNGA以前と以後ではもう別の会社の製品だと思えるくらいに違う。いまやTNGA世代でないトヨタ車を買うのは止めるべきというのが筆者の偽らざる感想だ。

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マツダからトヨタに伝播した「良いクルマづくり」

 これは個人的な捉え方だが、日本のメーカーの中で最初に「良いクルマづくり」を目指そうという明確なプロジェクトを立ち上げたのはマツダだと思う。

 トヨタはそれに大いに刺激を受けて発憤した。すでに何度か書いているが、ひとつの事件を書き記しておこう。マツダが先代のアクセラを発売した時、日本は空前のHV(ハイブリッド)ブームだった。車名別売り上げのランキングに並ぶのはHVばかり、だからマツダの営業は「HVがないと死んでしまう」とトップに泣きついた。

 「死ぬ」とまで言われては仕方ない。しかし、マツダは慢性的に人とお金がない。今からHVを自社開発しても元が取れるとは思えないから、マツダの幹部はトヨタを訪ね、HVシステムの供給を打診したのだ。

 そのクルマは後にアクセラ・ハイブリッドとして完成する。クルマが出来上がったところで、マツダのエンジニアたちはトヨタのエンジニアを招いて、完成お披露目の試乗の機会を設けた。試乗したトヨタのエンジニア達はその出来に驚き、テストコースの片隅で緊急会議が始まったという。

 「やばいよこれ。来週の役員試乗会で絶対に上にバレる」。何が違ったのかといえば回生ブレーキと物理ブレーキの協調領域だ。実はそこの味付けにどうしても違和感を持ったマツダのエンジニアがばねを1本作り替えた。実はこのマツダのエンジニアは入社直後からブレーキの基礎研究に配属され、半ば不遇を呪いながらひたすらブレーキに取り組んでいるうちに、ブレーキの第一人者のひとりになってしまった人である。「なんでとりあえず機能しているばねを捨てて、わざわざ新しく作り替えられるのかといわれても、そのくらいのコストで良くなるならやらないわけにはいかんでしょう?」

 たったそれだけの話だが、フィールが大きく変わった。トヨタにしてみればHVの周辺技術で弱小マツダに逆ねじをくらわせられるなどとは思ってもいなかったのだが、現実にぶつかって進退窮まった。しかしそこは流石トヨタである。エンジニア達は帰社後すぐに社長に報告を上げた。「トヨタのHVシステムを搭載したマツダのHVの出来が、トヨタより良い」。ここがトヨタの優れたところで、「格下だから認めない」みたいなことはしない。優れているとみるや誰にでも頭を下げて教えを請う。


ヤリスのリアビュー

 そして豊田章男社長自らがアクセラ・ハイブリッドの試乗に向かうのだ。マツダもそれに徹底して応えた。マツダのクルマの動きを決める特殊任務を受け持つ虫谷泰典氏による、徹底解説の場を用意したのだ。ここで隠し立て無しで全ての情報を開示して構わないと男気を見せたのは現副社長の藤原清志氏だ。

 豊田社長はマツダの考え方の多くに共感し、トヨタの「もっといいクルマ」作りに必要だと判断して、帰社してすぐ寺師茂樹副社長にマツダとの提携をまとめるよう指示を出した。

 こうしてそれはやがてトヨタアライアンスという大きな流れにつながっていくのだ。

 マツダが始めた「日本車のレベルアップ運動」はトヨタに伝播(でんぱ)し、いまトヨタを経由して世界のクルマに多大な影響を与えようとしている。

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