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京都が観光客でパンクする!? 古都を襲う「オーバーツーリズム」の暴走京都在住の社会学者が斬る(1/4 ページ)

インバウンドを始め観光立国を標ぼうする日本。その代表格、京都では多すぎる観光客に不満が噴出している。この「オーバーツーリズム」問題に社会学者が迫る。

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編集部からのお知らせ:

本記事は、書籍『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』(著・中井治郎 、星海社新書)の中から一部抜粋し、転載したものです。京都在住の社会学者による、観光客の殺到による社会・経済問題「オーバーツーリズム」の提起をお読みください。


 2019年5月。ちょうどこの本の企画について編集者とのやりとりがはじまった頃、「エベレストでさらに4人死亡」というニュースが目にとまった。よくある山岳事故のニュース、ではなかった。それはとても奇妙な事故だった。エベレスト山頂付近で続発する死亡事故について犠牲者のうちの1人のインド人登山者の死が報じられていたが、奇妙なのはその死因である。その不幸な登山者の死因は、エベレスト山頂付近で「12時間以上の混雑」に巻き込まれたことによる極度の疲労だったのである。

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観光地に客が殺到する問題「オーバーツーリズム」。日本では京都がその最前線だ(提供:ゲッティイメージズ)

 そして記事に添えられた写真に目を疑った。澄んだ青空を背景に鋭く切り立つエベレストの山頂。そこに写っているのは、山頂の切っ先に向けて、びっしりと数珠(じゅず)つなぎに連なる登山者の長い長い行列であった。「ここで12時間待つのか……」思わず言葉を失う。ディズニーランドよりもコミケよりも、まちがいなく世界でもっとも過酷な行列である。

 90年代から一般の登山客に向けてエベレスト山頂への登山を開放してきたネパール政府は、近年、希望者の増加を受けて登山許可証の発給数を増やしてきた。そして2019年の登頂者数は過去最高となる見込みであるという。

 その結果がこの山頂へと続く長蛇の列なのだ。エベレスト山頂といえば標高8848メートル、言うまでもなく地球上でもっとも人間にとって生存が困難な場所である。そして、そこに押し寄せた登山客たちが12時間待ちの大行列を発生させる。30年前ならばまったく想像することもできなかった光景かもしれない。

 そんな記事を見て思い出したことがある。09年8月、モアイ像で有名なチリ領イースター島を訪れた時に僕が巻き込まれた、ある事件である。

 首都サンティアゴから3700キロ、もっとも近い有人島までも2000キロあるという絶海の孤島イースター島。この地球上でもっとも文明から遠い場所の1つといえるだろう。そんな島で島民たちが島で唯一の空港に突入し、これを封鎖した。たまたまそのとき島にいた僕をふくむ外国人観光客たちは島を脱出することができなくなったのである。島民たちは怒っていた。

 「もう観光客はたくさんだ!」

 いつ飛ぶとも分からない飛行機を待つしかない“観光客”である僕は、太平洋に沈む夕日を眺めながら途方に暮れていた。こんな世界の果ての島にも観光客が押し寄せている。

 そして島民たちは観光客が目当てにするモアイではなく、これこそ自分たちの誇りだというカヌーのマークの旗を掲げていた。彼らはいったい何に怒っていたのだろうか。

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