人が辞めていく“ブラックな職場”をどう変える? サイボウズの実例に見る「制度の選択肢を増やすこと」の効用:組織の生産性を上げる「楽しさ」の作り方(2/2 ページ)
かつて4人に1人が辞めていく会社だったサイボウズは、その高い離職率をどう改善したのか。
楽しさと主体性を生むのは「選択肢を増やす」こと
社員が働きやすい制度も整えながら「社員が仲良くなる場づくり」も行うこと。これが私たちがしてきたことであり、並行して行うことで人事からの「変わろう」というメッセージが伝わりやすくなり、風土醸成に寄与したと考えています。制度を作るというと、人事としては気が引けがちですが、私たちが行ったことは、「現在あるものを壊して新しいものに」ではなく、「制度を増やす」ことでした。
一律の働き方ではなく、在宅勤務や時短、日数など「自分で働き方を選べる」制度、6年間の育児介護休暇も(介護は要介護などにかかわらず)、自分で休む期間を決められます。副業をするかしないかも自分で決めてもらいます。退社するときに、戻ってくる権利をもらうかどうかも自分で決めてもらいます。基本的に制度を使うか使わないかは「社員個人が決める」としています。簡単に言えば人事部は選択肢を増やしただけ。これが好評でした。
例えば、「今週1週間のランチは毎日カツ丼です」と言われたら、1週間毎日カツ丼を食べるでしょうか? その日の気分によって食べたいものも、食べれる量も変わるのが人間だと思います。私たちは意志ある動物なので「選びたい」のです。
この例は極端ですが、自分が今日どのように働くかも、「選べる」ようにしたのがサイボウズの人事制度です。入社時に「こう働く」と決めたものを一生続けるのは、人生何が起こるか分からない時代、ましてや「人生100年時代」といわれているライフスタイルに沿ったものとはいえなくなっています。
当たり前ですが、制度を利用するのは人事部含めた「社員」です。利用する人が「決める」。これにより「なぜ自分がそう決めたのか」という理由が自然発生するので、社員各自の行動に責任を持ち、主体性が生まれてきます。
逆に、自分であらゆることを決めることになるので、厳しいと思われる方もいらっしゃいます。毎日、「あなたは今日、会社に来ますか? 決めてください」といわれているのと同じだからです。当然ながら、先に伝えた部活動や誕生日会もやるやらない、入るか入らないは自由です。これも選択ですね。
4人に1人が辞める仲が良かったわけでもない会社が変わったきっかけ――それは、社員の「楽しさ」を増幅させる横のつながりの支援と、制度の選択肢を増やすことでした。これが、部活動に入る・入らないから、自分の働き方に至るまで、各人が「自分で決めていいんだ」と裁量を持てたことの喜びを生み、理由を考えて行動するようになる主体性を生みました。仕事に「楽しい」を持ち込むことを推奨した結果、「辞めない」会社になり、業績拡大の大きなエンジンとなりました。
社員に「楽しさ」や「裁量」を与えたら好き放題するのではないか――出てきそうな質問です。しかしどうでしょう。あなたは楽しさや裁量を与えられたとき、「好き放題」しますか?
そもそもそんな人は入社させてはいけないとも思うのですが(笑)、身をわきまえた行動をするのが多くの社会人だと思います。「好き放題」する人がいたら、「それは趣旨とは違うよ」と“叱るのではなく説明する”こと、情報をオープンにして「周囲の目」を意識させる仕組みも並行して行うことが大事です。
「ルールだから」で裁量を押さえるのではなく、目的に沿った使い方を促すことが制度を運用する人事部やマネジャーに求められることです。生産性を高める前に、個人の幸福度を高めること、そのために組織に「楽しさ」を生む仕組みについて、ぜひみなさんの組織でも考えてみてはいかがでしょうか。
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