ファーウェイのスマホは本当に「スパイ」可能か――米国が「禁輸」する真の狙い:米中貿易戦争の真実(6/6 ページ)
米国のファーウェイ禁輸の背景にあるスパイ問題。しかし、同社のスマホで「スパイ」は可能なのか?中国問題の第一人者が米国の真の狙いに迫る。
周波数巡る米国の焦りが「ファーウェイつぶし」に?
従って完全な5Gシステムを構築しようと思えば、sub-6 と mmWave を結合させ、長距離では sub-6 、短距離では mmWave を使用するといった使い分けが理想的なのだが、実際上はそうはいかない。
カバーする距離が短いというのは、ある意味では致命的な仕様となっており、国防報告書では、どれくらいの距離の差があるのかを検証した実験結果を掲載している。
図3-3は電柱に設置された1つの基地局が対応できる範囲を示している。
これは国防報告書の9頁目に掲載されている図表である。
実験はロサンゼルスの緩やかな地形の場所で行われ、基地局は電柱の非常に高いところに配置されている。ほぼ理想的な条件での実験だと言っていいだろう。
薄いグレーは1Gbpsのスピードが出る範囲、濃いグレーは100Mbpsのスピードが出る範囲で、左は mmWave 、右は sub-6 の結果である。
bpsとは「1秒間に転送可能なデータの量」のことで、「通信回線の速度」を表すときに使う。bits per second(ビット・パー・セコンド)の略である。「ビット」は「デジタルデータの大きさを表す最小単位」のこと。従って「1Gbps」は「1秒間に10億ビット転送できる」ことで、「1Mbps」は「1秒間に100万ビット転送できる」ことを表す。
図3-3をご覧いただければお分かりいただけるように、 mmWave( 左側)で sub-6( 右側)と同じ区域を全てカバーしようとすれば、必要な基地局の数は10倍以上になる可能性すらある。 Sub-6 は既存の基地局を流用し改造しさえすれば、一定程度対応が可能になるのに対して、 mmWave は大量に基地局を増設しなければならないのは歴然としている。それは非常に大きな出費となる。
国防報告書における試算では、少なくとも1300万台の基地局を新たに設置しなければならず、4000億ドルはかかるだろうとしている。
ちなみに中国は現在、約600万台の基地局を持っているが、アメリカは20万台ほどしかない。これこそは、実は致命的なディメリットなのだ。
このような特徴を周波数は持っているため、今後はおそらく日米韓以外の国では「sub-6」が主流になるだろう。
それならなぜ、アメリカは sub-6 ではなく、mmWave を使おうとしているのかと言うと、それはアメリカ政府、特に国防総省がこの周波数を使っているからだ。アメリカ政府は、実は大量の sub-6 周波数を使っている。特に sub-6 がメインで使う3〜4GHzの周波数を所有している。ところが、同じ周波数を5G商用に割り当ててしまうと、干渉が発生するとか、セキュリティ上の問題が発生する恐れが出て来る。
しかしアメリカ政府が他の周波数に移行するには、おそらく10年はかかるだろうと国防警告書にある。周波数をシェアする解決法もないではないが、それでも5年はかかるという。
そこで国防報告書は以下のように警告している。
だからこそ、アメリカおよびその同盟国である日韓は、 mmWave を使用することを余儀なくされている。もし、世界の主流が sub-6 となってしまうと、日米韓だけがガラパゴス化することになる。
また米国防総省が海外に出ると、どうしても sub-6 を使わざるを得なくなる。sub-6 を主導しているのが中国側だからだ。となると、今まで主に mmWave の開発に注力してきたアメリカにとっては大変不都合なことになる。
国防報告書は最後に、「アメリカは今後 sub-6 に注力せよ」とか、「バックドアに対して関税を課せ」とか「貿易戦争を強化せよ」あるいは「5G商品を販売する中国国有企業を規制せよ」といったさまざまなアドバイスを米政府に対して出している。
2019年の4月3日にこの国防報告書が発表され、5月15日にファーウェイをエンティティ・リストに載せた。この流れからみて、これこそが、アメリカがどうしてもファーウェイをつぶさなければならない本当の原因だったのだと言えよう。
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