ユニクロが“1人勝ち”を続ける理由――そのヒントは「着物」にあった:MBが語るアパレルビジネスの近未来【前編】(2/4 ページ)
近年は大量閉店や撤退が相次ぎ、苦境に立たされているアパレル業界の中で、過去最高益をたたき出し続け、“1人勝ち”を続けるユニクローー。「日本一ユニクロを買っているユニクロ研究家」を名乗る人気ファッションプロデューサーMBが、若者を中心に「おしゃれなもの」として定着したユニクロファッションの神髄を語る。
原点は「着物と洋服の違い」
――ユニクロの商品は安くてかつ商品の質がいいことは間違いない一方、ファッション性では万人受けする分、無難な地味なものになりがちだと思われます。それでも特に日本で支持されているのはどういった理由なのでしょうか。
日本で支持される理由としては、日本人がもともと素材を見るのが好きだという嗜好を持っているからだと思います。ユニクロはこの点で、安くて上質なものを提供できる。だから愛されているのだと思います。
――日本人が素材を見るのが好き……。確かにそう言われるとそうかもしれません。この文化は、どこから来ているのでしょうか。
これは着物と洋服の違いにつながります。例えばパリの洋服って、意外とそんなに素材は重要視されないんですよ。フランスのブランドは素材にはあまりこだわらず、デザインとシルエットにこだわる文化なんですね。一方、日本の着物はデザインがほぼ1パターンしかありません。
洋服だとジャケットがあったりスラックスがあったり、ブルゾンがあったりコートがあったりして、いろいろなバリエーションがあります。着物は、着流しなどもありますが、基本的にはみんなスタイルが同じです。
シルエットを見ても、洋服は曲線を作ったり立体で作ったりすることで、身体をきれいに見せることを目的にしています。一方、着物は直線的で、身体のラインを隠すことを主眼に置いています。考え方が真逆なんですよね。
――なるほど。そうすると着物を作る上では、作り手はどういう部分で差別化をしていたのでしょうか。
もちろんおしゃれって、みんなと何かが違うから褒められるわけです。この考え方は洋の東西を問わず変わりません。着物の場合、デザインもみんなと一緒、シルエットもみんなと変わりません。じゃあどこで差を出しているかというと、染めと織りなんですね。つまり、素材で差別化をするのがいわば「着物の文化」なんです。
ユニクロはこの点、この着物文化の考え方と酷似しています。デザイン面では極めてシンプル、シルエットもベーシックで、いわゆる「突拍子もないもの」は作らないですが、素材には徹底的にこだわっています。これが日本で愛されている理由だと思います。
もちろん、僕も和服の文化を深く知っているわけではありませんが、素材のいいものを大事にして1つのものを長く着続ける。この考え方が先祖の代から脈々と受け継がれているのだと思います。だからユニクロは日本で支持されているのだと思います。そして国内で成長していく過程で、海外に向けても発信できるデザイン力とシルエット力も次第に備わったために、いま海外に打って出ているのではないかと考えています。
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