断捨離で人はなぜ“人生リセット”したがるのか――「自己啓発と意識させない自己啓発」ブーム:日常に抵抗無く忍び込む“倫理”(1/4 ページ)
息の長いブームが続く断捨離、「片付ければ人生も変わる」という言説が多い。筆者はそこに巧妙な「自己啓発」のメソッドをみる。
年末の大掃除から年始の仕事始めに至る「年の変わり目」は、多かれ少なかれ“人生のリセット”を意識せざるを得ない機会です。
今年1年を振り返って、「『目標とする生き方』『なりたい自分』にどれだけ近づけたか」などについて真剣に考え、不要な品々を思い切って全部ごみに出し、ムダな人間関係を片っ端から清算する――そんな積極的な姿勢で毎年のこの時期を過ごしている猛者もいることでしょう。
「断捨離で人生に変化」=自己啓発の一種
近年驚くほどの勢いで拡大している断捨離ブームは、このような自己啓発的な文脈を取り入れたメソッドとして、知らず知らずにわたしたちの日常に溶け込んできています。「お片付け」という何気ない行動から、「人生の大転換」へとつながるといった「レバレッジ効果」(テコの原理)のような分かりやすさが、あたかも現世利益的な信仰のごとく人口に膾炙(かいしゃ)した要因であることは間違いないでしょう。
片付けコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵氏は、「片付けをすることで、人生を変える」という「こんまりメソッド」を提唱したことで有名です。世界的な断捨離ブームの火付け役として不動の地位を得ており、アメリカの雑誌『TIME』の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたほどです。
「こんまりメソッド」の特徴は、「残すものを『ときめくかどうか』の基準で選ぶこと」だと言います。
「片づけを通して自分の内面をみつめ、自分が大切にしている価値観を知ることで、二度と散らからない家をキープできるだけではなく、キャリアや人間関係など、人生における全ての選択において大きな変革をもたらします」(同氏の公式Webサイトより引用)
一般的に、自分自身の能力を向上させることや、精神的な成長を目指すことを「自己啓発」と表現しますが、この「こんまりメソッド」は、「お片付け」という日常的な活動に少しばかり「テコ入れ」することで、「人生にダイナミックな変化」を与えて「ときめく毎日を過ごす」ようになるといった「自己啓発」の一種と捉えられるでしょう。
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