「年俸1000万円の板前」も続々出現 給与を上げない経営者は見捨てられる:磯山友幸の「滅びる企業 生き残る企業」(3/3 ページ)
生産性というと日本人は、工場の生産性向上策を思い浮かべる。1時間に100個作っていた部品を110個にすれば生産性が10%上がるという製造業の考え方だ。だが、サービス産業の「生産性」は本来まったく違う。ところが日本では長年、製造業と同じ発想でサービス産業の「生産性」が語られてきた。これからはより良いものをより高く売り、従業員には他所よりも高い給料を払う。そんな会社が生き残っていく時代だ。
外食は二曲化 板前は年俸1000万円がザラに
一方で、外食に「特別感」を持つ人たちは、よりおいしい味と、より良いサービス、素晴らしい雰囲気を求める。これまでのデフレ下の日本では、こうしたサービスも安価で提供されてきたが、今後、こうしたサービスにおカネを払うのが当然、ということになるに違いない。つまり、ハイエンドの高級レストランはもちろん、ちょっとした外食でも「値上げ」が進んでいくと思われる。二極化するということだ。
すでに宿泊業では変化の兆しが出ている。日本を訪れる外国人客の増加で、ホテル不足が顕著になったこともあり、価格を上げるホテルが増えたのだ。ニューヨークはもちろん、シンガポールなどアジアのホテルに比べても安かった日本のホテルが、徐々に国際水準に近づいている。
東京オリンピック・パラリンピックなどを狙って新規にオープンするホテルも増えたが、人手不足の中で人材の「引き抜き」も目立つようになった。ちなみに、前述の日本生産性本部の調査の、10年から12年の平均値は、「飲食・宿泊」は米国の34.0%で、「卸売・小売」(38.4%)より低かった。それが、15年の調査では「卸売・小売」を上回っている。
今、力を付けた若手の和食料理人がどんどん海外に働きに出て行っている。和食ブームの中で、欧米だけでなくアジア諸国でも和食の板前の需要が大きいのだ。日本よりもはるかに高い年俸1000万円などがザラになっていると業界に詳しい経営者は言う。しかも、評判が高ければすぐにそれを上回る年俸で引き抜きの声がかかるという。
かつて野茂英雄投手やイチロー外野手がメジャーリーグに移籍した頃、日本のプロ野球界の給与水準は今とは比べものにならないくらい低かった。その後、優秀な選手を確保しようと思えば、高額の報酬が当たり前という時代になり、日本のプロ野球選手の年俸もかなり高くなった。
料理人の世界でも同じことが起きるに違いない。力のある板前を雇おうと思えば、海外の料理店に引けを取らない年俸を提示しなければ人材が確保できなくなるだろう。当然、その分、顧客には高い料金で食事を楽しんでもらうことになる。より良いものをより高く売り、他所よりも高い給料を払う、そんな会社が生き残っていくに違いない。
著者プロフィール
磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP )、『2022年、「働き方」はこうなる 』(PHPビジネス新書)、共著に『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP )などがある。
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