“車内快適性”だけじゃない――JR東海の開発者が明かす最新型新幹線「N700S」2つの「真の狙い」:東京五輪直前に登場(3/3 ページ)
JR東海は700系新幹線車両の引退イベントを2020年3月に実施する。同車両は1999年に営業運転を開始して以来、20年にわたって走り続けてきた。JR東海の開発者が明かす最新型新幹線「N700S」2つの「真の狙い」とは?
もう一つのN700Sの戦略 他社運用が容易な「標準車両」
安全管理の面以外にも、N700Sの戦略はある。前出の福島課長はこう打ち明ける。
「N700Sは新幹線の『標準車両』を目指して設計しました。これまでの16両だけでなく、12両や8両など、さまざまな編成に対応することが可能で、さまざまな線区で運用できるようになっています。これによりJRの他社さんでも運用が容易になるだけでなく、海外への展開を視野に入れたときにも、大きく変えることなく適応できるコンセプトで作っています」
これまでのN700系やN700Aなど、JR東海の新幹線車両は16両編成というのが基本設計で、これをこのまま12両や8両などに変えることは不可能だった。N700Sでは新幹線の台車に「SiC(炭化ケイ素)」という次世代半導体素子を使用しており、これによってバッテリー自走システムや「標準車両」を実現させたと言っても過言ではない。
【訂正:2020年1月28日午前10時10分 初出で「新幹線の台車に「SiC(炭化ケイ素)」と記載しておりましたが、「台車」を「主変換装置」に訂正いたします】
「SiCは高速鉄道では当社が初めてN700Sで実現したものです。これで車両下に備わっているさまざまな機器の小型軽量化や省エネを実現しました。これで旧来の16両編成に縛られない運用が可能になりました」(福島課長)
新幹線は今や国内だけでなく、世界的な乗り物になっている。07年には台湾で新幹線が開業し、JR東海の車両が走行中だ。今後の計画としては、アメリカ(米国)のテキサス州でも同社の新幹線の輸出を見据えている。
JR東海の新幹線鉄道事業本部・上野雅之副本部長も30日、記者団の前でこう話した。
「N700Sは『標準車両』が最大の特徴と言えます。東海道では16両編成ですが、テキサスでは8両、台湾では12両編成になると思います。単純な比較はできませんけども、海外の展開に向けてしっかりした車両ができたと考えております」
また、災害時の運用についても上野副本部長は狙いをこう話す。
「架線が停電してもバッテリー自走システムで自力走行できる機能があるので、台風や地震といった自然災害に対応した機能の進化もさらに開発して参りたいと考えております」
1964年の東京オリンピックでは、開会に先立ち東海道新幹線が開業したことは、もはや教科書を通じて学んだ人も多い歴史的出来事だろう。20年の2度目の東京五輪ではこれほどのハード的進化はないものの、実はソフト面では前回に劣らない、世界戦略や安全面に革新をもたらすイノベーションが新幹線に起ころうとしている事実は、もっと多くの人に知ってもらいたいところだ。
関連記事
- リニアを阻む静岡県が知られたくない「田代ダム」の不都合な真実
静岡県が大井川の減水問題などを理由に、リニア中央新幹線の建設工事に「待った」をかけ続ける一方で、「黙して語らない」大量の水がある。静岡県の地元マスコミも触れられない「田代ダム」の不都合な真実を追った――。 - 静岡県知事の「リニア妨害」 県内からも不満噴出の衝撃【前編】
静岡県が大井川の減水問題などを理由に、リニア中央新幹線の建設工事に「待った」をかけ続けている。なぜ静岡県知事はリニア建設を「妨害」するのか? 現地取材で浮かび上がった実態を前後編でお届けする。 - リニアの「徐行」は新幹線の最高速度だった
わずか40分で東京の品川駅と名古屋駅を結ぶリニア中央新幹線。リニアに乗車し時速500キロを体感してきた。感想は…… - リニアを止める静岡県 川勝知事「ヤクザ・ゴロツキ」暴言問題の背景に「ハコモノ行政」
「ヤクザの集団」「ゴロツキ」「反対する人がいたら、県議会議員の資格はない」――。静岡県の川勝平太知事は12月19日、JR東静岡駅前に計画している図書館などが整備される予定のいわゆるハコモノ施設「文化力の拠点」について、来年度予算を認めない県議会の自民党系の最大会派を、こう侮辱した。川勝知事のとどまるところを知らない“口撃”の背景にあるのは……。 - “グランクラス2.0”始動! 「新幹線版ファーストクラス」をリニューアルするJR東の「次の一手」
JR東日本は新幹線版ファーストクラス「グランクラス」の車内サービスを運行後初めて一新する。他社で車内販売が廃止される中、JR東が打った「次の一手」の狙いとは――。 - 「ラブライブ!」舞台の沼津 アニメ未登場でも「聖地」にしてしまう驚きの手法とは
アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」を用いた静岡県沼津市による「聖地巡礼」が盛り上がりを見せている――。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.